原始惑星系円盤の横顔に見えた惑星の種の空間分布

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私たちから見てほぼ真横を向いている原始惑星系円盤をJWSTやアルマ望遠鏡などで高解像度観測した研究により、惑星の種となる微小粒子の分布などが明らかにされた。

【2025年2月10日 東京大学ヨーロッパ宇宙機関

惑星形成の第一歩は、原始惑星系円盤内でマイクロメートルサイズの固体微粒子が互いに衝突や付着を繰り返して大きくなっていくことだ。この成長過程において微粒子は円盤内を大規模に移動するので、微粒子の運動を観測し理解することが、微惑星の形成を解明する鍵となる。

こうした観測において、私たちに対してほぼ真横を向いている「エッジオン」の原始惑星系円盤は、円盤の厚み方向や半径方向の大きさを測定するのに適している。おうし座の方向約450光年に位置する原始星「HH 30」円盤はそのようなエッジオン原始惑星系円盤のうちの一つで、円盤内のマイクロメートルサイズ以下の微粒子については可視光線と近赤外線の観測により空間分布が詳しく調べられてきた。

HH 30の円盤とジェット
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえたHH 30の円盤と円盤から垂直に噴出するジェットの5年間の変化(提供:NASA and A.Watson (Instituto de Astronokia, UNAM, Mexico)

一方、マイクロメートルサイズ以上の微粒子の空間分布を調べるには、より長い波長での高解像度観測が必要となる。そこで東京大学の田崎亮さんたちの研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による近・中間赤外線観測とアルマ望遠鏡によるミリ波観測で、HH 30の大きい微粒子の分布を調べた。

観測結果と数値シミュレーションの結果を比較したところ、数マイクロメートルサイズ以上に成長した微粒子はまだ沈澱を起こしていないことや、ミリメートルサイズの微粒子は沈澱を起こし、半径方向の空間分布が収縮していることが明らかになった。また、微粒子の沈殿が非効率である場合に観測結果をよく再現できることも示された。

HH 30の画像とその解釈
3つの異なる波長でとらえたHH 30の画像(右)とその解釈を描いたイラスト(左)。HSTとJWSTでは中心星や円盤内縁由来の放射を円盤表層の微粒子が散乱した光が観測され、アルマ望遠鏡ではミリメートルサイズの固体粒子由来の熱的放射が観測されている。前者では円盤中心面を通過する光は高い物質密度のため透過できず、暗い帯状領域(ダークレーン)として現れる(提供:Tazaki et al.)

シミュレーションで再現した沈澱の効率と観測結果の比較
数値シミュレーションによるマイクロメートルサイズの微粒子が効率よく沈澱する場合(左)としない場合(中央)の予測、JWSTによる観測結果(右)。上段・下段はそれぞれ近赤外線・中間赤外線での観測結果に対応(提供:Tazaki et al.)

各波長の観測画像には、円盤上面の複雑な構造や円盤から垂直に伸びるジェット、ジェットを取り囲む幅の広い円錐形状のガスの流れ(アウトフロー)とそれに付随する構造、さらに円盤の中心に位置する若い星の光を反射する星雲の姿が、鮮明にとらえられている。これらの構造を総合すると、HH 30ではダイナミックなプロセスが複数進行中で、塵の粒子もジェットも新たな惑星の形成に一役買っていることがわかる。

HH 30
(上段左)(左上)可視光線(HST)、(右上)近赤外線(JWST)、(左下)中間赤外線(JWST、対角成分は検出器由来)、(右下)ミリ波(アルマ望遠鏡)。HST以外は擬似カラー画像。近赤外線で輝く円盤構造は中心星から約450億km(太陽から海王星までの約10倍)まで広がる。(上段右)JWSTによる近・中間赤外線観測データにもとづく擬似カラー画像。(下段)JWSTによる波長2.0μmの近赤外線観測像(提供:(上段)ESA/Webb, NASA & CSA, ESA/Hubble, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、(下段)Tazaki et al.

田崎さんたちはHH 30のほかに3つのエッジオン原始惑星系円盤で同様の観測を行っていて、数マイクロメートルサイズの微粒子が沈澱している天体とそうでない天体が存在することを発見している。こうした天体ごとの違いの起源や、固体微粒子の性質や沈殿過程の理論モデルを詳細に精査することで、微惑星がいつ、どこで、どのように形成されたのかに関する理解が進むと期待される。

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