天の川銀河内初、高速ジェットと分子雲の直接相互作用が明らかに

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マイクロクエーサーに付随する分子雲で近紫外線放射が検出され、天の川銀河内で初めて高速ジェットと分子雲の直接相互作用が確認された。この成果は、宇宙線粒子の加速やクエーサーの理解に役立つと期待される。

【2024年6月3日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所

ブラックホールと恒星の近接連星系において、ジェットを放出しているブラックホールは「マイクロクエーサー」と呼ばれる。マイクロクエーサーの一つ、わし座の方向約1万8000光年の距離にある「SS 433」のジェットは天の川銀河内で最も活動的で、根元の速度は秒速7万8000km(光速の26%)にも達している。伝搬中に減速はするものの、周囲の星間物質に相当な速度で長期間にわたり衝突し続けて、超新星爆発よりも大きな影響を及ぼしていると考えられている。

SS 433周辺では、野辺山45m電波望遠鏡の観測により複数の分子雲が見つかっていて、マイクロクエーサーから噴出するジェットと直接相互作用していると予測されていた。名古屋大学の山本宏昭さんたちの研究チームは、NASAの紫外線天文衛星「GALEX」などのアーカイブデータを利用してSS 433の西部に位置する4つの分子雲を調べ、一番近い場所にある分子雲N4の広がりとほぼ一致する近紫外線放射を発見した。

近紫外線、電波、X線の強度分布図に分子雲の分布を等高線で描いた図
SS 433周囲の近紫外線放射(赤)、電波連続波(緑)、X線放射(青)の強度分布の三色合成図。N1~N4はYamamoto et al. (2008)で定義された分子雲のラベル。N4が今回近紫外線放射が見つかった分子雲(提供:H. Yamamoto et al. (2024)、国立天文台野辺山宇宙電波観測所リリース、以下同)

このN4の高密度領域で放射される一酸化炭素分子13CO (J=3-2)輝線の放射強度は、観測された近紫外線放射の強度と反相関の分布を示していて(下図a)、近紫外線放射領域の中央部分で近紫外線放射が弱く見え、そこに高密度分子雲が多く存在していることがわかった。こうした反相関の分布は、分子雲による近紫外線放射の減光が効いていることが原因と考えられ、近紫外線放射が分子雲の奥から放射されていることを意味している。また、一酸化炭素分子がよく励起されていて分子雲の温度や密度が高いことが示され(下図b)、同じ領域の周囲で遠赤外線放射が強くなっていることもわかった(下図c)。

近紫外線の放射強度分布図に一酸化炭素分子輝線の放射強度などを重ねた図
近紫外線の放射強度分布(紫が弱く赤が強い)に、以下の等高線を重ねた図。(a)高密度分子雲から放射される一酸化炭素分子の輝線13CO (J=3-2)の放射強度、(b)一酸化炭素分子の輝線CO (J=3-2)とCO (J=1-0)放射のピーク温度比、(c)ダストの熱放射

過去の研究によると、この分子雲の温度は約55K(約-220℃)で、一般的な分子雲よりも数十度高温である。山本さんたちは、分子雲の背後から放射された紫外線放射が分子雲を暖めていると考えている。また、分子雲に含まれる星間ダストも同様に近紫外線放射によって暖められ、それが遠赤外線で再放射しているともみられている。つまり今回の研究成果は、天の川銀河内で初めて高速度のジェットと分子雲が直接相互作用している現場を明らかにしたものであるといえる。

近紫外線放射のイメージ図
高速度のジェットと分子雲との相互作用を示したイメージ図。(上)分子雲の周辺領域の様子を上から見た想像図。(下)上図に対応させた観測結果。上下の図は共に、青がSS 433のジェット、赤が近紫外線放射、緑が分子雲の分布を示す。下図の等高線は一酸化炭素分子13CO (J=3-2)輝線の放射強度の分布を示しており、緑で示した分子雲よりも高密度の領域を示している

今回のマイクロクエーサーに関する結果は、非常に遠方にありながら明るく見える銀河の一種である(本家の)クエーサーや、ジェットと分子雲との直接相互作用が見つかっている遠方銀河を理解するうえでも有用なものになるだろう。また、現代天文学の謎の一つである「ペタ電子ボルト(=1000兆電子ボルト)ものエネルギーを持つ天の川銀河内の高エネルギー宇宙線粒子の起源」の候補にもなり得るという。超新星爆発では加速できる宇宙線粒子のエネルギーにも限度がある一方、SS 433で起こっていると考えられる現象は長期間にわたりジェットが放出されていて、加速を維持できるとみられるためだ。

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