天の川を撃ち抜く「弾丸」天体を新たに8つ発見

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天の川銀河の円盤部にある分子雲に、高速度で運動する非常に小さな分子ガスが新たに8個発見された。高速の天体集団が分子雲に突入してできた構造とみられる。

【2026年3月2日 慶應義塾大学

わし座の方向約1万光年の距離にある天体「W44」は、天の川銀河の円盤内にある超新星残骸で、残骸に隣接する巨大分子雲には「Bullet(弾丸)」と呼ばれる超高速度の分子ガスが見つかっている(参照:「天の川を撃ち抜く超音速の弾丸、正体は浮遊ブラックホールの可能性」)。W44は銀河円盤の回転に乗って約40km/sで地球から遠ざかる向きに動いているが、Bulletは直径が約2光年と小さいにもかかわらず、約120km/sという異常に大きな速度の幅を持っていて、銀河回転とは逆に地球に近づく向きに運動している。

Bulletの質量は約7.5太陽質量と普通の恒星なみだが、運動エネルギーは1048ergと非常に大きい。また、超新星残骸の膨張速度と直径から、年齢は5000~8000歳と推定されている。さらに、天球面上の位置と視線速度の関係を図にすると特徴的な「Y字型」の構造を示すことも知られている。これらの特徴は既知の天体では説明が難しく、その正体は謎だ。

こうした事実から、Bulletは単独で浮遊する「野良ブラックホール」が分子雲の高密度のガスに突入し、重力で引き寄せられた部分が加速されてできたのではという説が提唱されていた。

慶應義塾大学の蒔田桃子さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡を使い、Bulletが存在する領域を高い空間分解能で観測した。その結果、Bulletに似た非常にコンパクトな超高速度の分子ガスが、Bulletの周りで新たに8つ見つかった。そのサイズはBulletの数分の1と小さいことから、「Petit-Bullets」と名付けられた。

Petit-Bulletsの想像図
今回見つかった「Petit-Bullets」の想像図。ブラックホールを含む高速の天体集団が分子雲に突入し、高速運動する分子ガスが何本もできている(提供:慶應義塾大学プレスリリース、以下同)

Petit-Bulletsの位置と視線速度の関係を図にすると、Bulletとよく似た「V字型」の広い速度構造が見られるため、Petit-BulletsもBulletと同様のしくみで形成されたことがうかがえる。蒔田さんたちがPetit-Bulletsの空間分布と速度構造を詳しく解析したところ、これらの分子ガスの運動の原因は1つの天体ではなく、いくつもの点状の重力源が集団となって分子雲に高速で突入した可能性が高いことが明らかになった。さらに、Petit-Bulletsの速度の幅からその質量を見積もると、おおよそ球状星団と同じ規模であることもわかった。

アルマ望遠鏡による電波画像
(a)アルマ望遠鏡で得られた「Bullet」周辺の電波画像。一酸化炭素 (CO) 分子が出す電波の強度分布を表し、図の中央に「Bullet」が位置する。マゼンタ色の×印は今回発見された8個の「Petit-Bullets」の位置。黒の矢印はパネル(b)~(f)の銀経・銀緯を表す。(b),(c)は2種類の銀経に沿って、(d)~(f)は3種類の銀緯に沿って、それぞれ得られたCO分子ガスの視線速度と電波強度の関係を表す。この付近の銀河回転の速度は約+40km/s(緑色の帯)だが、8個のPetit-Bullets(PB1-8)は +40~-120 km/s 程度の非常に大きな速度の幅を持ち、「V字型」の速度構造を示す

天体の突入モデルの模式図
Bullet, Petit-Bulletsと分子雲の模式図。分子雲の高密度の部分に天体が突入し、この天体の重力に引き寄せられて分子ガスが突起状に飛び出す。突起は地球に向かう方向に伸びていて、突起の先端に近いガスほど大きな速度を持っている。このガスの分布と速度を(c)のような図にすると、特徴的なV字(Y字)型の構造が現れる(提供:M. Makita et al.

今回の研究成果は、銀河内部の未知の天体集団を発見する新たな手法となる可能性を秘めている。また、天の川銀河の中に数多く存在するブラックホールの分布や天の川銀河自体の進化を理解する上でも重要なヒントを与えるものだ。

蒔田さんたちは今後もアルマ望遠鏡を使って、より高密度のガスを追跡する観測を行い、Petit-Bulletsの内部の速度構造やガスの物理状態を詳しく解析する予定だ。これによって、それぞれのガスの運動方向や形成過程をより厳密に絞り込めると期待される。

さらに並行して、近赤外線での深い撮像観測も実施し、Petit-Bulletsに対応する恒星や星団を直接検出しようとしている。もしPetit-Bulletsの正体を直接とらえられれば、「高速で運動する重力天体が分子雲に突入して特異な分子ガス構造ができる」というシナリオを観測的に検証でき、見えない重力天体を探る新たな手法を確立することにも役立つだろう。

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