赤ちゃん星を包む惑星の材料は個性豊か

このエントリーをはてなブックマークに追加
ガスと塵の中から太陽のような恒星が生まれつつある現場をアルマ望遠鏡で観測したところ、星によって周囲のガスに含まれる有機分子が大きく異なることがわかった。

【2021年3月26日 理化学研究所

地球を含む太陽系の環境はありふれたものなのだろうか、それとも特殊なものなのだろうか。4000個以上もの太陽系外惑星が発見された今、惑星の質量や軌道といった物理的な特性を論じることができるようになっている。一方で、惑星系を構成する物質とその起源といった、化学面からの分析も大事だ。既にできあがった惑星系の化学組成を遠くから調べるのは容易ではないが、生まれつつある恒星(原始星)を取り巻く惑星の材料となる物質は、分子に特有の電磁波スペクトルを観測することで調べられる。

惑星系の誕生過程の概念図
惑星系の誕生過程の概念図。原始惑星系円盤形成領域の化学組成は、将来作られる惑星系の化学環境の「初期状態」といえる(提供:理化学研究所リリース、以下同)

理化学研究所のYao-Lun Yangさんたちの研究成果によれば、惑星系の材料は誕生前から多様であるらしい。

Yangさんたちの研究グループは約980光年の距離にあるペルセウス座分子雲にアルマ望遠鏡を向け、約50個の原始星を観測した。これらの原始星は、惑星の母体となる原始惑星系円盤が形成される前の段階にあり、ガスに包まれている。Yangさんたちはこの原始星周辺のガスに含まれるメタノールなどの有機分子が出す電波のスペクトルを調べ、原始星たちが同じ分子雲の中で生まれながらも様々な化学組成を示すことを明らかにした。

観測した原始星の58%で、周囲のガスから何らかの有機分子が検出された。検出された有機分子の存在量を、それぞれの原始星を包むガスと塵の総量を基準として比較すると、分子によって100倍以上の差がある。メタノールは検出された原始星同士だけで比べても500倍近い差があり、少なすぎて検出できなかった原始星も含めればその差はさらに広がるはずだ。

この差はどこで生じたのだろうか。原始星の明るさや周囲の温度など、現在観測できる物理的状態からは原因を特定できなかった。多様性の起源はこれよりも早い段階、あるいはより局所的な環境の違いにあるらしい。

原始星の周りに存在するガスの分布
3つの原始星それぞれの周りに存在するガスの分布。左から原始星Barnard 1c、IRAS 03235+3004、L1455 IRASS4の周りに存在するメタノール(上)とギ酸メチル(下)の分布。カラーが分子の出すスペクトル線の強度、等高線は星間塵の出す熱放射の強度を表す。有機分子の存在量が塵の量、すなわち天体の規模によって決まっていないことがわかる

一方で、有機分子同士の存在量を比較すると、様々な関係が見つかった。

メタノール(CH3OH)とアセトニトリル(CH3CN)は、どちらかが多ければもう一方も多い傾向が現れている。ただ、かたや酸素(O)を含む有機分子で、かたや窒素(N)を含む有機分子であり、宇宙ではその生成過程が異なるかもしれないと思われていたので、この結果は驚きだったという。

メタノールについては、塵の表面で一酸化炭素(CO)分子に水素が付加することで生成されていることが確実視されるものの、アセトニトリルについてはガス同士の反応で作られる可能性も挙げられていた。だが両者の存在量に相関関係があることは、アセトニトリルもメタノールのように塵の表面で生成される過程が重要であることを示唆している。

メタノールとアセトニトリルの存在量の相関
メタノールとアセトニトリルの存在量の相関。(左)縦軸がアセトニトリル(CH3CN)、横軸がメタノール(CH3OH)の存在量に相当する。50個の天体で、両分子の相対的な量は変わらないが、それぞれの存在量は100倍以上(200~500倍)の範囲にわたる様々な値を示す。(右)ガスの総量や密度状態の指標となる値(星間塵が出す電波の強度)で、分子の存在量を規格化して比較した結果。規格化後も相関関係はほぼ変わらず、値も依然として100倍以上にわたる広い範囲に分布している。両分子の関係性を示すとともに、天体の規模によらず有機分子の存在量比そのものがばらつき(多様性)を持っていることを示している

さらに複雑な有機分子であるギ酸メチル(CH3OCHO)やジメチルエーテル(CH3OCH3)の存在量も、メタノールが多いほど同じように多くなっている。ただし、それに加えて原始星周辺のガスや塵の密度も関わっていて、密度が高いほどメタノールに対する複雑な有機分子の割合がやや高いという傾向があった。

有機分子の存在量比とガスの総量や密度状態の相関
有機分子の存在量比とガスの総量や密度状態の相関。ギ酸メチル(CH3OCHO)(左)、あるいはジメチルエーテル(CH3OCH3)(右)と、メタノールの存在量比を縦軸に、ガスの総量や密度状態の指標となる値(星間塵が出す電波の強度)を横軸にとって比較したグラフ。どちらも、ガスの総量や密度が高い(横軸の値が大きい)天体ほど、メタノール分子に対する存在量比が高い(縦軸の値が大きい)傾向が見られる

今回の研究は、原始星の周囲で有機分子が生成される過程を知る上で大きな手がかりになりそうだ。そして、同じ分子雲の中で生まれた原始星でもこれだけ惑星系の材料に差異が生じることは、太陽系の形成過程を考察する上でも重要だと言える。

関連記事