小マゼラン雲にホットコアを初検出

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重元素量の少ない小マゼラン雲内で、原始星を繭のように包む暖かい「ホットコア」が初めて見つかった。昔の宇宙における物質進化や星形成過程の多様性の解明につながると期待される発見だ。

【2023年5月15日 新潟大学

冷たく巨大なガスの塊の中で原始星(赤ちゃん星)が誕生すると、星は周囲のガスや塵を暖めはじめる。その原始星を繭のように包む暖かいガス雲は「ホットコア」と呼ばれ、そこでは水や複雑な有機分子を含む様々な分子が見つかっている。

重元素(ヘリウムよりも重い元素)が少なく初期の宇宙に似た環境にあるホットコアを調べれば、昔の宇宙における星形成の物理過程や星形成に伴う物質の化学進化を理解する手がかりが得られるはずだ。そうした環境の一つが、私たちから約19万光年の距離にある矮小銀河「小マゼラン雲」である。小マゼラン雲は太陽系近傍と比べて炭素や酸素などの存在量が約10~20%と少なく、その環境は今から約100億年前の宇宙によく似ている。しかし、これまで小マゼラン雲内でホットコアは見つかっていなかった。

新潟大学の下西隆さんたちの研究チームは、小マゼラン雲などに存在する大質量の原始星をアルマ望遠鏡を用いて系統的に観測するプロジェクト「MAGOS(MAGellanic Outflow and chemistry Survey)」を実施してきた。そのなかで、高密度のガスに取り囲まれている可能性が示唆された2つの原始星について、MAGOSとアルマ望遠鏡のアーカイブデータを組み合わせて、周囲のガスの性質を調べた。

その結果、一酸化炭素、メタノール、二酸化硫黄など多くの分子や分子イオンのスペクトル線が検出され、これらの原始星の周囲にホットコアが存在していることが明らかになった。

小マゼラン雲の2つのホットコア
小マゼラン雲で発見された2つのホットコア。各パネル内は、原始星周囲のダスト(星間塵)、二酸化硫黄分子、メタノール分子からの電波放射をとらえた画像。背景はヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星「ハーシェル」による小マゼラン雲の赤外線画像(提供:新潟大学リリース)

今回発見されたホットコアではどちらも、メタノール分子は比較的低温で広がった領域に由来していて、高温でコンパクトなホットコアからの寄与は非常に小さい。これまでに知られている、重元素量が通常の環境ではホットコアがメタノールの輝線で検出されてきたこととは大きく異なる結果だ。また、小マゼラン雲ではメタノールではなく、二酸化硫黄の分子輝線がホットコア領域の検出に有効であることも示された。

ホットコアの二酸化硫黄とメタノールの分子輝線の積分強度の比較
ホットコア「S07」の二酸化硫黄(SO2)(左)とメタノール(CH3OH)(右)の分子輝線の積分強度の比較。二酸化硫黄の分子輝線のほうがコンパクトかつ高温で、ホットコアを効果的に追跡している様子がわかる(提供:Shimonishi et al. 2023)

これらの結果は、宇宙の様々な年代、環境における星間物質の化学進化が普遍的かどうかを知るうえで重要な成果となる。星や惑星の形成と進化、さらには惑星へ取り込まれ得る生命材料物質の多様性の究明にもつながるだろう。

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