大きな赤ちゃん星の温かさが届く範囲は10光年程度

このエントリーをはてなブックマークに追加
大質量原始星周辺の温度分布が初めて明らかにされ、このような星が周囲の星間ガス雲へ及ぼす影響が普遍的に10光年程度であることなどが示された。

【2023年6月1日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所

質量が太陽の10~20倍以上もあるような大質量星は、膨大なネルギーを放出して周囲の星間ガスに大きな影響を与える。たとえば、NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」が天の川銀河内で約600個見つけた「赤外線バブル」の多くは、中心に位置する大質量星からの強い紫外線放射が周囲の星間ガスを電離して作ったものと考えられる。また、赤外線バブルの縁ではしばしば、おそらくはバブルの膨張が引き金となって、次世代の大質量星が誕生している。

では、生まれたての原始星(赤ちゃん星)の段階では、大質量星は周囲に対してどれだけの影響を及ぼすのだろうか。名古屋市科学館の河野樹人さんたちの研究チームは、天の川のわし座とたて座の境界付近にある赤外線バブル「N49」を野辺山45m電波望遠鏡で調べた。これまでの研究で、N49の周りには細長いフィラメント状の構造が存在することが知られている。

N49周囲の一酸化炭素分子の強度分布
(左)FUGINプロジェクトで得られたN49周囲の一酸化炭素分子(13CO)の強度分布。(黄枠)今回の研究で野辺山45m電波望遠鏡を使ってアンモニア分子を観測した範囲、(中心の白い点線)N49の位置。(右)「スピッツァー」によるN49の3色合成画像(提供:名古屋市科学館、以下同)

今回の観測では、鹿児島大学の研究者たちを中心とした「KAGONMA(Kagoshima galactic object survey with the Nobeyama 45-meter telescope by mapping in ammonia lines)」プロジェクトの一環としてアンモニア分子からの電波をとらえ、このフィラメント状構造の中にアンモニアガスの塊が3つ存在することを明らかにした。とくに中央のクランプには年齢10万年以下の若い大質量星があり、およそ10光年の範囲で高密度分子ガス雲の温度が上昇している。

N49のアンモニア分子の空間分布
野辺山45m電波望遠鏡で観測されたN49のアンモニア分子の空間分布。カラーと等高線で電波強度の違いを示している

これは、生まれたての大質量星によって周囲の高密度分子ガス雲が温められた現場を見ているものと考えられる。これまで調べられていなかった、赤外線バブルの縁にある大質量原始星周辺の温度分布を初めて明らかにした成果であり、赤外線バブルの縁も他の天の川銀河の大質量星形成領域の観測から得られた結果と変わらないことを示すものだ。つまり、大質量原始星は周囲の星間ガス雲を加熱するが、その影響範囲はどこでも変わらず10光年程度と限定的であることがわかってきた。

さらに、今回のアンモニア分子の観測結果と、天の川銀河の大規模分子雲サーベイプロジェクト「FUGIN」によって得られた一酸化炭素分子の空間分布との比較から、視線速度の異なるフィラメント状分子雲の重なった場所に高密度分子ガスが存在することがわかった。先行研究で提案された、2つの分子雲の衝突によって高密度分子ガスが作られ、そこでバブルの縁にある若い大質量星が形成されたとするシナリオを支持する観測結果だ。

N49周辺の分子ガスの温度分布
(左)アンモニア分子の観測データの解析で得られたN49周辺の分子ガスの温度分布。十字の位置に若い大質量星が存在する。(右)FUGINで得られた一酸化炭素分子(13CO)の2つの視線速度成分(88km/s、95km/s)の強度分布に赤い等高線でアンモニア分子の分布を重ねたもの