天の川銀河中心の分子雲の距離と速度を精密計測
【2023年9月26日 国立天文台水沢】
天の川銀河は中心近くに棒状の構造を持つ棒渦巻銀河と考えられている。銀河の内側では棒構造の影響で複雑な動きが見られ、中心から約300光年の位置には、都市圏を取り囲む環状線のように高密度な分子雲が集中する領域が存在することが知られている。
分子雲の3次元的な位置関係や運動については電波や赤外線、X線などの観測を通して研究されてきたが、まだ定説は得られていない。この課題に対して、VLBI観測の高い空間分解能を活かした距離決定(年周視差の測定)と3次元速度の決定(固有運動の測定)が重要な役割を果たすと考えられている。
国立天文台水沢VLBI観測所の酒井大裕さんたちの研究チームは国立天文台のVERA電波望遠鏡を使って、分子雲「いて座B2」の位置と速度を精密に測定した。いて座B2は銀河中心の超大質量ブラックホールから約300光年離れたところにあり、新しい星が大量に生まれている場所だ。
酒井さんたちはVERAの特徴である「2ビーム観測」により、いて座B2から放たれている水メーザーのモニター観測を行ってメーザー源の位置を求めた。2ビーム観測では、位置の精密計測で最も大きな誤差を生み出す地上大気による「天体のふらつき」が補正され、天体位置を精密に測定できる。
観測の結果、いて座B2までの距離は約2万4000(-5,500/+10,000)光年、銀河中心ブラックホールに対して秒速約140kmの速度で動いていることが示された。先行研究で提唱されていた距離や運動と矛盾しない値であり、今回の直接的な測定が先行研究の裏付けともなる。
今後はVERAに東アジアの電波望遠鏡を加えた東アジアVLBI観測網を用いて、さらに高感度な観測を行い、いて座B2以外の分子雲に対しても3次元位置と速度が測定できるようになる見通しだ。銀河中心の分子雲がどのように動いているかを把握することで、超大質量ブラックホールに物質が運ばれるメカニズムが明らかになると期待される。
〈参照〉
- 国立天文台水沢:天の川銀河中心の分子雲の“速度計測”に成功
- PASJ:Water maser distributions and their internal motions in the Sagittarius B2 complex 論文
〈関連リンク〉
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