ガス雲の衝突が星団を作る

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ガス雲同士が衝突して圧縮されることで、様々な星団の誕生が説明できることがわかった。この仕組みは球状星団にも当てはまる可能性があり、普遍的なものかもしれない。

【2021年3月17日 名古屋大学大学院理学研究科 天体物理学研究室

恒星は材料となるガス雲が収縮することで生まれると考えられているが、何がきっかけでガス雲が収縮するのかはまだ解明し切れていない。多くの天文学者はただ1つのガス雲を思い浮かべ、それを圧縮させる方法について考えてきたが、このやり方だけでは大質量星を含むたくさんの星が集まった星団を効率的に作ることはできない。

これに対し、名古屋大学の立原研悟さんと福井康雄さん、大阪府立大学の西村淳さんと藤田真司さんたちの研究グループは、複数のガス雲の衝突が星形成の引き金になるという仮説に注目した。衝突によって大規模な星団が作れることには理論的な裏付けもある。

一方で、現在観測されている大質量星や星団の数を説明できるほどガス雲の衝突が頻繁に起こるかどうかというのは別の問題であり、これを観測で証明するのは難しい。ガス雲そのものは電波で観測できるが、ガス雲同士の衝突は激しい現象ではなく重なって混ざり合うような過程に近く、一旦混ざってしまえば、それが元々複数の塊だったことを示すのは容易ではないからだ。

そこで立原さんたちは、長野県の野辺山45m電波望遠鏡や南米アタカマ高原のNANTEN2、アルマ望遠鏡といった電波望遠鏡で天の川銀河内外の星団周辺を観測し、ガス雲の衝突シミュレーションの結果と比べる研究を10年以上にわたって続けてきた。

数値シミュレーションによる球状ガス雲の衝突
数値シミュレーションで再現した2個の球状ガス雲が衝突する様子。(左)真横から見た様子の時間進化、(右)衝突の最後の段階を正面から見た場合の観測結果を示したもの(提供:北海道大学、京都大学)

立原さんたちの研究成果は日本天文学会欧文研究報告(PASJ)の特集号として刊行された。この特集号には、同研究グループの呼びかけに応じた国内外の天文学者たちによる論文も寄せられている。これまでわずか数天体でしか知られていなかったガス雲衝突の痕跡が92個まで増えただけでなく、痕跡は様々な場所、規模の星団の周りで発見されており、ガス雲の衝突が普遍的な現象であることを示唆する結果となっている。

地球から約6000光年と比較的近い星形成領域であるわし星雲M16(へび座)や、天の川銀河で最も活発に星が生まれている領域の一つであるW51(わし座)でもガス雲が衝突している形跡が見つかった。また、方向約7000万光年の距離にある衝突銀河のアンテナ銀河(からす座、触角銀河とも)でも、大規模なガス雲同士の衝突が起こっていて、球状星団が誕生しつつあることがわかった。

分子雲の衝突で誕生したと考えられる星団の位置と主なガス雲の電波観測結果
分子雲同士の衝突により誕生したと考えられる星団の位置と、代表的なガス雲の電波観測結果(提供:名古屋大学、国立天文台、NASA、JPL-Caltech、R. Hurt (SSC/Caltech)、Robert Gendler、Subaru Telescope、ESA、The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)、Hubble Collaboration、2MASS)

天の川銀河にも球状星団はあるが、それらは通常の星団(散開星団)と比べて規模が大きく、年齢も100億歳以上と極めて古いため、誕生のメカニズムも異なるとされることが多かった。しかしアンテナ銀河の事例は、天の川銀河が若かったときに起こった大規模なガス雲同士の衝突で球状星団が生まれた可能性を示唆している。

こうした結果から、研究グループはガス雲の衝突が古今、大小、あらゆる星団の形成に不可欠な要因だった可能性を指摘している。また、これまでの研究は大質量星に注目したものだったが、太陽のような軽い恒星の誕生にもガス雲衝突が関わっていた可能性についても研究を進めていくという。

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