天の川銀河の最果てに、有機物とともに生まれた星を発見
【2021年12月3日 アルマ望遠鏡】
天の川銀河のガスや塵の大半は、半径5万~6万5000光年程度の銀河円盤に分布している。太陽系はその円盤の中で中心から約2万6000光年の位置にあるが、中心から約4万4000光年以上離れた領域は外縁部、約6万光年以上離れた領域は最外縁部と呼ばれる。この最外縁部における星形成については研究が進んでおらず、観測を通じて天の川銀河全体について新たな知見をもたらす可能性を秘めたフロンティアと言える。
最外縁部では有機物の材料となる炭素・酸素・窒素などの重元素が太陽系近傍よりも少なく、星形成の主要な舞台となる腕も発達していない。こうした特徴は天の川銀河が形成されて間もないころの環境と共通している。現在の太陽系は有機物が豊富な環境にあるが、太陽系が誕生した46億年前やそれ以前にそうした環境が豊富だったかを知る上で、天の川銀河最外縁部の研究は重要なのだ。
新潟大学の下西隆さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、天の川銀河の中心から約6万2000光年と遠く離れた最外縁部にあるオリオン座方向の星形成領域「WB89-789」を観測した。その結果、原始星(生まれたての恒星)が見つかり、その周りに水や複雑な有機分子を含む30種類以上の分子が存在することも明らかになった。
天の川銀河最外縁部において原始星やそれを取り囲む有機分子の雲が検出されたのは今回が初めてだ。「私たちの住む銀河系には、星・惑星形成や星間物質の研究が及んでいない未知の領域がまだまだたくさんあります。太陽系近傍とは大きく環境の異なる最外縁部のような原始的な領域で、今まさに星が生まれ、そこで化学的に豊かな物質進化が起こっていることは驚きでした。複雑な有機分子が作られる環境は、宇宙史の比較的初期の段階から存在していた可能性があります」(下西さん)。
さらに、今回発見された原始星周囲の複雑な分子の存在比を、天の川銀河の内側にある同様の天体と比較したところ、割合が非常に類似していた。最外縁部のように重元素量が少ない原始的な環境においても、複雑な有機分子が銀河の内側と同じような効率で生成されることを示唆する結果だ。
「銀河系最外縁部のような重元素が少ない環境下でも、複雑な有機分子が効率的に作られることが今回の観測で明らかになりました。宇宙において有機分子がどのように作られるかについては未解明な部分も多いですが、異なる星形成環境における有機分子の観測と理論研究からの予測を比較することで、その謎に迫ることができると考えています」(国立天文台 古家健次さん)
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:銀河系の果てに多様な有機分子を発見! - アルマ望遠鏡が捉えた銀河系最外縁部の赤ちゃん星
- The Astrophysical Journal:The Detection of a Hot Molecular Core in the Extreme Outer Galaxy 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/09/19 鮮やかにとらえられた天の川銀河の最果ての星形成
- 2024/07/04 天の川銀河の衛星銀河は理論予測の倍以上存在か
- 2024/06/10 ダークマターの塊が天の川銀河を貫通した痕が見つかった
- 2024/06/03 天の川銀河内初、高速ジェットと分子雲の直接相互作用が明らかに
- 2024/04/23 原始星には「近所」のガス雲からも星の材料が流れ込む
- 2024/04/17 赤ちゃん星が起こしたダイナミックな磁束放出
- 2024/03/07 天の川銀河に降る水素ガス雲は外からやって来た
- 2024/02/08 初期宇宙のクエーサーから強烈に噴き出す分子ガス
- 2024/01/19 天の川銀河の折り重なる磁場を初めて測定
- 2023/11/21 太陽系が生まれた場所は今より1万光年も銀河の内側
- 2023/10/10 アルマ望遠鏡が惑星形成の「最初の一歩」をとらえた
- 2023/09/26 天の川銀河中心の分子雲の距離と速度を精密計測
- 2023/09/22 フィラメント分裂による星誕生の証拠
- 2023/09/21 分子雲内で複雑有機分子ができる過程を量子化学計算で検証
- 2023/09/12 天の川銀河の中心から遠い星ほど重元素は少ない
- 2023/08/18 小嶋さん、原始星の増光現象を発見
- 2023/08/08 三つ子の赤ちゃん星にガスを届ける渦状腕
- 2023/07/21 ジャコビニ・チンナー彗星の塵が壊れにくいわけ
- 2023/07/12 昔ながらの環境が残る星団の「人口調査」
- 2023/07/10 生まれたての星をくるむ、3枚重ねのパンケーキ状構造