昔の環境が残る⼩マゼラン雲で、星の産声を初検出
【2022年9月2日 九州大学】
ビッグバン直後の宇宙に存在した元素は、ほぼ水素とヘリウムだけであり、それより重い元素は恒星内部での核融合反応などを通じて徐々に増えていった。こうして重元素が増えたことで、恒星の誕生過程も時代とともに変化したかもしれない。
たとえば、現在の宇宙で原始星が生まれると、その周りでは物質が回転して円盤を形成し、それとは垂直な方向に噴出する双極分子流(アウトフロー)が産声のごとく生じる。双極分子流は高速のガスの流れで、星の材料が収縮するのを妨げる余分な回転エネルギーを持ち去る働きを持つ。だが、重元素が少なく、集まったガスの中に塵が含まれないと、円盤や双極分子流が形成されにくくなる可能性が指摘されている。
宇宙全体で重元素が少なかった時代の原始星を観測することは技術的に不可能だが、現在の宇宙にも局所的に重元素が少ない場所が残っている。地球から約19万光年離れた銀河である小マゼラン雲は、原始星が詳しく観測できる範囲にある銀河としては最も重元素が少ない。その割合は天の川銀河の約20%で、100億年前の宇宙に近い環境だと考えられる。
九州大学大学院理学研究院の徳田一起さんたちの研究チームは、この小マゼラン雲に存在する大質量原始星Y246をアルマ望遠鏡で観測し、同銀河の原始星では初めて双極分子流を検出することに成功した。この結果は、少なくとも100億年前から現在に至るまで、恒星は同じように作られてきたことを示唆するものだ。
双極分子流を観測する際は、一酸化炭素が発する電波の輝線をとらえるのが一般的だ。しかし小マゼラン雲では一酸化炭素からの電波が微弱だったため、通常使われる輝線では双極分子流を検出できなかった。徳田さんたちは温度や密度が高い場所で強くなる輝線を選択し、原始星からの産声をとらえた。
小マゼラン雲ではY246のような原始星が数十個以上確認されている。研究チームは今後これらを網羅的に観測し、双極分子流発生の普遍性を検証する予定だ。
〈参照〉
- 九州大学:19万光年彼方の小マゼラン雲から星の産声をキャッチ!
- 大阪公立大学:お隣の銀河で星の産声を捉えた!100億年前から星が誕生するメカニズムは変わらない!?
- The Astrophysical Journal Letters:The First Detection of a Protostellar CO Outflow in the Small Magellanic Cloud with ALMA 論文
〈関連リンク〉
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