生命誕生などに迫る窓、アルマ望遠鏡の新受信機が試験に成功
【2023年8月21日 アルマ望遠鏡】
チリ・チャナントール高原に建設されたアルマ望遠鏡は、計66台のアンテナからなり、それぞれに複数の受信機が搭載されている。各受信機はバンド1からバンド10まで区切られた周波数帯域のいずれかを受け持ち、全体として周波数35~950GHz(波長0.3~8.6mm)の電波をカバーしている。
このうち67~84GHzのバンド2を受け持つ受信機は、2020年に開発が始まったばかりだ。今年初めにバンド2の初期量産受信機が初めてアルマ望遠鏡のアンテナに搭載され、試験に成功している。この受信機は、今までカバーされていなかった新しい観測の窓を開くと同時に、現在運用中のバンド3受信機によってカバーされている84~116ギガヘルツの周波数帯域も観測することができる。
今回、1台目の成功を受けて生産された2台目と3台目のバンド2受信機が、新たにアンテナへ搭載された。これにより、バンド2の電波を複数のアンテナで受信する、干渉計としての観測が可能となった。今後さらに多くのバンド2受信機の搭載が進むにつれて、詳細さと感度レベルが向上し、これまで以上に精細に宇宙の観測が可能となる。
バンド2の周波数帯には、有機分子が放つ電波が含まれる。惑星誕生の現場では様々な分子が検出されていて、その化学組成の特徴は惑星系へと受け継がれていくと考えられている。複雑な有機分子の観測が進めば、太陽系に存在する物質の起源の理解や、生命誕生の条件がどのようにして作られるのかといった謎に迫る知見が得られると期待される。
さらに、非常に遠方の銀河に存在する一酸化炭素分子が放つ電波の観測にもバンド2受信機が活躍する。一酸化炭素分子は、星の材料となる分子雲の中で水素分子に次いで豊富に存在する分子で、電波を強く放射することから、よく観測されている。ただし、遠方天体からの電波は、宇宙膨張によって波長が伸びる「赤方偏移」によって周波数が低くなるため、より低い周波数をカバーするバンド2受信機を用いる必要がある。バンド2受信機によって遠方銀河に含まれる星の材料のガス量を精度よく測定できるようになり、銀河の進化などに関わる貴重な情報が得られる。
今後はバンド2の初期量産受信機の性能の最適化が進められ、その後に66台の全てのアンテナへのバンド2受信機の搭載に向けた本格量産がスタートする。アルマ望遠鏡では、バンド2受信機の搭載以外に、2030年代に現システムを補完するアップグレードが計画されている。これが完了すると、一度に観測できる周波数帯域が現在の4倍以上に広がって観測スピードが劇的に向上し、新たな観測の時代の到来となる。
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