アルマ望遠鏡が初期観測から10年
【2021年9月30日 星ナビ編集部】
解説:平松正顕
(「星ナビ」2021年9月号「ALMA 魂の10年」より抜粋)
アルマ望遠鏡は、66台のパラボラアンテナからなる巨大なシステムだ。そんなアルマ望遠鏡があるのは、チリ北部、世界で最も乾燥するといわれる標高5000mのアタカマ砂漠。天体から届く微弱なミリ波・サブミリ波を受信するのに適した土地だ。東アジア地域と北米、欧州の21か国・地域が設置国のチリと協力して運用する国際プロジェクトとして、人類に新たな知見をもたらし続けてくれている。
アルマ望遠鏡が観測するのは、宇宙の様々な天体から発せられるミリ波・サブミリ波である。星や惑星の材料である星間物質や星間塵のほか、高温のプラズマガスもアルマ望遠鏡のターゲットだ。さらに、太陽の彩層や超巨大ブラックホールを取り囲む超高温のガスからもミリ波・サブミリ波は放出されている。
「アルマ望遠鏡最初の10年で最も研究が進展した分野は?」と問われたら、「惑星形成の研究」と答える研究者は多いだろう。中でも2014年に発表した「おうし座HL星の原始惑星系円盤」の画像は、惑星形成の研究を大いに刺激したと同時に、アルマ望遠鏡を代表する成果となった。
人々の興味をつかんで離さないブラックホールの研究でも、アルマ望遠鏡は活躍している。その代表は、楕円銀河「M87の中心に存在する超巨大ブラックホールの撮影」である。この観測を行ったのは、地球上の6局8台の電波望遠鏡を結合して観測を行うイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)。アルマ望遠鏡は、直径9000kmという地球サイズの望遠鏡ネットワークの中で最も高い感度を持つ望遠鏡として、要の役割を果たした。
アルマ望遠鏡はこの10年間で天文学を大きく変えた。では、アルマ望遠鏡が今後解くべき課題は残されていないのか?答えはもちろん否。高性能な望遠鏡が観測を始めると、謎が解けるの同時に新たな謎が生まれるのが常である。
こうした新しい謎に挑むには、アルマ望遠鏡自身もアップグレードが必要だ。それに伴い、日本国内での装置開発やアルマ望遠鏡の共同運用を継続する「アルマ2」計画が2023年からスタートする。
2030年代になれば、建設開始がつい先日承認された巨大な低周波電波干渉計Square Kilometer Array(SKA)の観測も始まっていることだろう。さらに、SKAとアルマ望遠鏡の間の周波数を主に観測する電波干渉計ngVLAも2030年代中ごろの観測開始を目指している。パワーアップしたアルマ望遠鏡とngVLA、SKAを組み合わせる電波観測の新たな黄金時代が、およそ10年先には待っている。それまでに、アルマ望遠鏡はどんな謎を解き明かし、どんな謎を生み出しているだろうか。アルマ望遠鏡最初の10年と同じかそれ以上に衝撃的な宇宙の姿を見せてくれることを、ぜひご期待いただきたい。
星ナビ9月号では、アルマ望遠鏡の初期観測開始から10年を記念した特集記事「ALMA 魂の10年」を掲載しています。10年間の進化や代表的な成果など、アルマ望遠鏡の歩みを振り返ります。
〈関連リンク〉
- 「星ナビ」2021年9月号 記事全文
関連記事
- 2024/11/19 「星空こよみ2025(壁掛け版)」に関するお詫びと修正版送付のお知らせ
- 2024/11/14 「COIAS」発見小惑星に「アオ」命名、15日に「命名祝賀会」配信
- 2024/11/09 千年の時を超えて「#道長と同じ月を見上げよう」
- 2024/10/31 星ナビ12月号は「紫金山・アトラス彗星」と「スマート望遠鏡最新機種」
- 2024/10/23 ソニーの「星空フォトコンテスト2024」応募締切迫る
- 2024/10/09 ガス円盤のうねりが示す“原始惑星の時短レシピ”
- 2024/10/03 「火星のクレーター」を教室に再現!ドラマ「宙わたる教室」が10月放送開始
- 2024/10/02 星ナビ11月号は「銀河鉄道の夜から100年」と「紫金山・アトラス彗星」
- 2024/09/11 アストロアーツ/星ナビ協賛、ソニーの「星空フォトコンテスト」応募は10月31日まで
- 2024/09/02 星ナビ10月号は「いよいよ接近!紫金山・アトラス彗星」
- 2024/08/02 動画公開!華やかなペルセウス座流星群を記録しよう
- 2024/07/30 星ナビ9月号は「華麗なるペルセ群流星」と「スマホで #天文なう」
- 2024/07/05 金井三男さんの星ナビ「こだわり天文夜話 最終話」とステラナビゲータ番組「世界の星座」を特別公開
- 2024/07/01 星ナビ8月号は「スマホで天体&星景写真」と特別付録「夏の星空&おでかけダイアリー」
- 2024/06/14 星ナビ付録「星空未来チェックノート」の現象をステラナビゲータでシミュレーション!
- 2024/06/04 星ナビ7月号「人工天体虎の巻 第四巻」スペシャル動画公開
- 2024/05/31 星ナビ7月号は「星空人生100年計画」と特別付録「星空未来チェックノート」
- 2024/04/30 星ナビ6月号は「魚眼レンズで天体写真」と特別付録「1テーマ5分でわかる!天体画像処理6」
- 2024/04/02 星ナビ5月号は「ポン・ブルックス彗星を見る・撮る」と特別付録「1テーマ5分でわかる!天体画像処理5」
- 2024/03/19 『恋する小惑星』を追体験!Webアプリ「COIAS」