宇宙再電離の現場を初めて直接観測

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ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、約129億年前の宇宙で若い星形成銀河が周囲の銀河間ガスを電離している様子を観測した。銀河が宇宙再電離を引き起こしている現場が初めてとらえられた。

【2023年6月15日 名古屋大学ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

約138億年前にビッグバンで誕生した直後の高温な宇宙では、陽子と電子は分離していたが、宇宙が冷えると結合して中性水素ガスとなっていた。しかし、やがて何らかの要因で中性水素は再び陽子と電子に分離していく。「宇宙の再電離」と呼ばれるこの現象はビッグバンから約1.5億年後に始まり、10億年後ごろまでには、ほとんどの水素が陽子と電子に分かれたプラズマ状態になったと考えられている。

宇宙の再電離を引き起こしたのは、若い恒星が発する紫外線だったという説が有力だが、明るい銀河中心核(クエーサー)や未知の物理現象によるものだという説もある。宇宙再電離期の銀河と銀河間ガスの相互作用を調べるため、名古屋大学の柏野大地さんたちの研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などにより観測された超遠方の宇宙再電離期にある6つのクエーサーから届く光を分析した。

光の中でも中性水素が吸収する波長(ライマンアルファ)を調べれば、その方向の中性水素がどれだけ減っているか、つまり再電離が進んでいるかがわかる。柏野さんたちはまず、非常に明るいことで有名なうお座のクエーサー「J0100+2802」の方向を観測し、ビッグバン後7.5億年から11億年の宇宙に存在する117個の銀河を同定した。

同定された117個の銀河の一部
クエーサー「J0100+2802」の方向で同定された117個の銀河の一部(zは赤方偏移の値)(提供:名古屋大学リリース)

これらのうち、ビッグバン後9.5億年ごろに注目すると、全体としては中性水素が多く残っている中で、銀河から半径250万光年の範囲ではライマンアルファの透過率が高い、つまり再電離が進んでいることがわかった。それからさらに1億年ほど経った時代では、個々の電離領域が広がって重なり合い、宇宙全体が再電離されていることが示された。

各銀河からの距離とライマンアルファ光の平均透過率
銀河からの距離とライマンアルファ光の平均透過率の関係。縦軸の値が大きいほど中性水素ガスが少ない。(赤)今回の研究で中心に扱った129億年前のクエーサー近くの領域。クエーサーからの強い光でガスが電離し、透過率が高くなる。(青)128億年前。まだ宇宙全体に中性ガスが豊富で、光の透過率が低い時期。部分的に透過率が高いのは銀河周辺でガスが電離したところで、銀河が周囲のガスを電離している証拠と言える。距離が小さいところで透過率が低いのは、銀河周囲のガス密度が高いためと考えられる。(紫)127億年前。銀河からの距離に応じて透過率が単調に高くなっていく。宇宙全体がほとんど電離されるが、銀河の周囲ではガス密度が高いため光の吸収が強くなっていることを示す(提供:Kashino et al. 2023

117個の銀河自体の性質を調べると、恒星の死によってまき散らされる重元素が少なく、その一方で若い星が多く存在し中性水素を電離させる光を強く放っていることが確認された。このように若く活発な性質を示す銀河は、現在の宇宙では1%程度しか見られないが、ビッグバン後10億年程度の宇宙では当たり前だったことがわかっている。

宇宙再電離の主役はクエーサーのような特殊な天体や現象ではなく、当時の一般的な銀河、およびそこに含まれる若い恒星だったようだ。

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