原始銀河団内に予想外の高温ガスを発見

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110億前の宇宙で、当時としては高温な100万度以上のガスで満たされた原始銀河団が見つかった。初期宇宙で低温だった銀河間ガスが現在のように高温になるメカニズムの解明につながりそうだ。

【2023年3月22日 カブリIPMU

宇宙に存在する全原子のうち約90%は、銀河と銀河の間を満たすガスとして存在している。現在の宇宙では、こうした銀河間ガスは摂氏10万度から1000万度以上もあり、「中高温銀河間物質(warm-hot intergalactic medium; WHIM)」と呼ばれている。ところが、銀河における星形成が最盛期であった100億年以上前、銀河間ガスのほとんどは1万度以下という比較的低い温度だったことがわかっている。

そんななかで、宇宙が30億歳だったころに当たる約110億光年彼方の宇宙に、WHIMに匹敵する高温の銀河間ガス領域が見つかった。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)のChenze Dongさんたちの研究チームは、2022年にろくぶんぎ座の方向に発見された「COSTCO-I」と呼ばれる原始銀河団の紫外線スペクトルデータを調べた。COSTCO-Iの総質量は太陽の400兆倍以上で、大きさは数百万光年に及ぶ。これほどのサイズであれば、原始銀河団は水素で満たされているはずだ。そしてその水素が比較的低温の中性水素ガスであれば、波長121.6nmの紫外線をよく吸収するため、紫外線スペクトルでその吸収が検出できる。

しかし、COSTCO-Iの位置に、中性水素ガスによる吸収は検出されなかった。「中性水素の吸収は、原始銀河団を探す一般的な探査方法の一つで、COSTCO-Iの近くにある他の原始銀河団は、その吸収シグナルを示しています。そのため、COSTCO-Iで吸収シグナルが見えないことは驚きでした」(Dongさん)。

中性水素ガスによる吸収の比較
原始銀河団「COSTCO-I」周囲で観測された中性水素ガスによる吸収(上)と、コンピューターシミュレーションから予想される中性水素ガスの吸収の比較。(赤)吸収が強い領域、(青)弱い領域、(緑・黄)中間の領域、(黒い点)これまでにCOSTCO-I周囲で銀河が検出された場所。COSTCO-Iの位置(星印)では、観測された中性水素ガスの吸収が、その時代の宇宙の平均値とあまり変わらないことがわかる(提供:Dong et al., 2023)

COSTCO-1の銀河間ガスは100万度以上だと考えられ、当時の宇宙に一般的に存在した銀河間ガスと比べてはるかに高温だ。「もし、現在の銀河間ガスが、沸騰し泡立つ巨大な宇宙シチューであると考えるなら、COSTCO-Iは、おそらく、シチューがまだ冷たかった過去の時代の最初の泡です」(カブリIPMU Khee-Gan Leeさん)。

「WHIMの性質と起源の解明は、天体物理学上の謎の一つです。遠方宇宙において、銀河間ガスが加熱され、WHIMへ変化しだした領域を垣間見ることができれば、低温の銀河間ガスから現在の宇宙のような沸騰した銀河間ガスへ変化するメカニズムを明らかにすることができるでしょう。銀河間ガスが沸騰するメカニズムにはいくつかの可能性がありますが、私たちは、重力崩壊の際にガスが互いに衝突して加熱されるか、原始銀河団内の超大質量ブラックホールの巨大な電波ジェットがエネルギーを送り込んでいるのではないかと考えています」(Leeさん)。

原始銀河団周辺の銀河間ガスの大規模加熱
シミュレーションデータを用いて可視化した、原始銀河団周辺の銀河間ガスの大規模加熱の様子(COSTCO-Iで観測されたシナリオに近いと考えられる)。(黄)数百万光年にわたって広がる巨大な高温ガスの塊。(青)原始銀河団の外側にある低温のガス。フィラメントのように原始銀河団周囲の高温のガスと他の構造をつないでいる。(ガス中の白い点)星から放出された光(提供:The THREE HUNDRED Collaboration)

銀河間ガスは、銀河における星形成の材料を供給するガスの貯蔵庫だ。しかし、高温のガスと低温のガスでは、銀河へのガスの流入のしやすさが異なる。遠方宇宙におけるWHIMの成長を直接研究できれば、銀河の形成・進化を維持するガスのライフサイクルについて、首尾一貫した描像を得られるだろう。

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