予想以上に強い原始銀河団からの赤外線放射

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すばる望遠鏡と5機の赤外線天文衛星の観測データから、約120億年光年彼方の原始銀河団に見られる赤外線放射が予想よりも強いことが明らかになった。原始銀河団に激しく星形成を行う銀河や成長中の超大質量ブラックホールが潜んでいる可能性を示唆する結果である。

【2020年2月27日 すばる望遠鏡

宇宙には様々な銀河が存在しているが、銀河がたくさん集まった場所である銀河団では大質量楕円銀河が、銀河がほとんどない場所では渦巻銀河が多数を占めているなど、銀河の特徴はその周辺の環境によって異なっている。したがって、現在の銀河がどのように形作られたかを解明するには、昔の宇宙における銀河と環境との関係が重要なヒントとなる。

この関係を調べるには、銀河団の祖先とされる原始銀河団の性質の全体像をつかむ必要があり、多くの原始銀河団の観測が重要となる。とくに、宇宙で最も銀河が多く生まれたとされる約100~120億年前の原始銀河団はさかんに研究されているが、原始銀河団は天球上でまばらにしか存在しないために見つけるのが非常に難しく、100億光年を超える遠方の原始銀河団はほんのわずかしか見つかっていない。

すばる望遠鏡に搭載の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)を用いた超高域深宇宙探査(HSC-SSP)は、この困難を克服する強力な研究だ。HSC-SSPの初期に行われた観測から、約120億年前の宇宙にある原始銀河団が探査され、約180領域もの大規模な原始銀河団カタログが得られた(参照:「宇宙は原始銀河団であふれている」)。

しかし、これだけでは不十分だ。HSCは可視光線での観測だが、銀河の中で何が起こっているのかを解き明かすには様々な波長の観測が必要となる。とくに活発な星形成銀河では、星から放たれた光の大部分が塵に吸収されてしまうため、星形成率を正確に見積もり、塵を温めている天体の正体を明らかにするには、温められた塵が発する赤外線や電波を幅広い波長域で観測しなければならない。

国立天文台の久保真理子さんたちの研究チームは原始銀河団が放つ赤外線放射について調べるため、HSCによる広域可視光線観測に加え、赤外線天文衛星「プランク」、「IRAS」、「WISE」、「ハーシェル」、「あかり」が過去に観測したデータを利用した研究を行った。

それぞれの衛星では中間赤外線から遠赤外線までの超広域画像が得られているが、遠くの天体を個々に検出するには解像度や感度が低い。そこで久保さんたちは、HSCで見つかった原始銀河団について赤外線天文衛星のデータを重ね合わせるという手法を用いた。これにより、約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像が初めてとらえられた。とくに波長30~200μm帯はこれまで普通の遠方銀河でさえ全く様子がわからなかった波長帯であり、極めて画期的な成果といえる。

画像解析手法の模式図 画像解析手法の模式図。すばる望遠鏡のHSCによる観測で原始銀河団を探し、その領域について赤外線宇宙望遠鏡で得られた画像を重ね合わせることで赤外線放射の全体像をとらえることに成功した(提供:国立天文台、以下同)

今回検出した赤外線放射は予想以上にとても強く、HSCで見つかった星形成銀河だけでは説明できない。研究チームが赤外線放射の波長分布を詳しく調べたところ、典型的な星形成銀河よりも温かい塵が存在することが明らかになった。原因として、成長中の超大質量ブラックホール(活動銀河核)や若く熱い星形成銀河が原始銀河団に潜んでいて、塵をより高温にしていることが考えられる。

原始銀河団が放つ赤外線放射の全体像 約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像。原始銀河団の全ての銀河による放射強度の総和(赤丸)、HSCで検出した銀河1つあたりの放射強度(黒点・黒点線)、HSCの可視光線から予想される原始銀河団からの赤外線放射(灰色曲線)を示す。赤外線宇宙望遠鏡の観測から求めた放射強度と比較すると、足りない部分(濃灰色の領域)がある

原始銀河団に潜んだ活動性をさらに詳しく調べるには、個々の銀河に分解して検証する必要がある。「欧州と日本が計画している将来の赤外線宇宙望遠鏡『SPICA』を使えば、個別の銀河で何が起こっているかをより詳細に研究できるでしょう。一方でSPICAは、100平方度を超えるような超広域観測は得意ではありません。今回の研究成果はSPICAによる将来の研究を補完するものにもなるでしょう」(久保さん)。

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