すばる望遠鏡の次世代分光装置、星の光をとらえる試験に成功

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すばる望遠鏡の次世代主力装置として開発が進む超広視野多天体分光器「PFS」が、約2400本の光ファイバーを動かして多数の星を同時に分光観測し、スペクトルを取得することに初めて成功した。

【2022年11月15日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡は1999年以来、口径8.2mの主鏡で多くの光を集め、広い視野を観測する能力によって活躍してきた。2013年には満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC; ハイパー・シュプリーム・カム)」が観測を開始し、数々の成果を挙げている。

現在、すばる望遠鏡の能力を新しい観測装置によって強化する計画が進められている。その装置とはHSCの分光器版とも言うべき超広視野多天体分光器「Prime Focus Spectrograph(PFS; プライム・フォーカス・スペクトログラフ)」だ。

PFSはいくつかのサブシステムに分かれている。HSCに匹敵する広い視野を持つ主焦点装置内に約2400本の光ファイバーが配置され、それぞれが異なる星や銀河からの光を望遠鏡ドーム内にある分光器に送ることで、最大約2400天体のスペクトルを同時に取得する仕組みだ。一本一本のファイバーの位置はメトロロジカメラによって監視され、狙った天体に合わせて10数μmの精度で動く。分光器には異なる色に対応する3つのカメラが備わっていて、380nmから1260nm(可視光線から近赤外線)の広い波長範囲に及ぶスペクトルを観測できる。

PFSの模式図
複数のサブシステムからなるPFSの模式図(提供:PFS Project/Kavli IPMU/NAOJ)

PFS自身には視野全体を見渡して天体の位置を測る能力がないため、あらかじめ位置がわかっている天体を観測する。天体の位置計算とファイバーの位置計算を合わせるため、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)を中心とした研究チームは、9月21日から26日にかけてラスタースキャンと呼ばれる試験を実施した。

ラスタースキャンでは目的の天体が写ると予想される位置にファイバーをセットした上で、望遠鏡の向きを少しずらしては撮影するという動作を繰り返す。当初の位置計算が合っていれば、望遠鏡をずらすと分光器が受け取る光は暗くなるはずだ。多くの明るい星でラスタースキャンを行い、位置ずれを修正する調整を繰り返した結果、数百個の天体を同時に分光観測できるようになった。

ラスタースキャンで得られたデータ
ラスタースキャンで得られたデータ。ファイバーは全体としては六角形に配置されているが、そのうち現在分光器につながっているファイバーを通った光の強さが表示されている(青が弱く、黄が強い)。オリオン座の散開星団NGC 1980の方向を、3×3の正方形を描くように望遠鏡を少しずつずらしながら9回撮影した。そのため各ファイバーからの光も3×3の格子状になっているが、多くの場合で真ん中の点が明るいことがわかる。画像クリックで表示拡大(提供:PFS project、以下同)

「このような成果を出すことができたのはたいへん素晴らしいことだと思いますし、チームメンバーを本当に誇りに思います。このマイルストーンはまだ、1つの観測領域において特定のファイバー配置を用い達成されたものです。星に対するファイバー配置精度はまだ満足のいくレベルに達していません。しかし、これは明らかに非常に大きな前進です」(カブリIPMU PFSプロジェクトマネージャー 田村直之さん)。

今後は11月と12月に試験観測が予定されていて、より細かなピッチでのラスタースキャンと、より暗い天体での長時間露光を行うことが目標となっている。

PFSの主焦点装置と試験観測の結果
(左)すばる望遠鏡に取り付けられたPFSの「主焦点装置」 。(右)試験観測の結果。NGC 1980の方向を300秒露光して得られた多数の星のスペクトルが並んでいる

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