ブラックホールの合体で光は放たれるか?
【2023年4月14日 すばる望遠鏡】
2015年に初めて重力波が検出されて以来、これまでに約90件の重力波イベントが観測されている。とくに、2017年8月17日に検出された「GW170817」は史上初めて中性子星同士の合体による重力波をとらえた例となり、世界各地の地上・宇宙の望遠鏡で追観測が行われて様々な電磁波の「残光」が検出されたことでも話題となった(参照:「連星中性子星の合体からの重力波を初検出、電磁波で重力波源を初観測」)。
しかし、重力波イベントに伴う電磁波が確実にとらえられたのはこのGW170817しかない。これまでに重力波を検出した重力波望遠鏡は米国の「LIGO」(2基)とイタリアの「Virgo」だが、3基の同時観測では重力波源の位置をピンポイントで求められず、天球上のある範囲に絞ることしかできないため、追観測で対応天体を見つけづらいという事情がある。
重力波は中性子星同士(NS-NS)、ブラックホールと中性子星(BH-NS)、ブラックホール同士(BH-BH)など様々なコンパクト天体の合体で放射され、重力波の波形からどのタイプかがわかる。過去に検出された重力波の約9割はBH-BHの合体によるものだ。ブラックホールはきわめて重力が強く、光すら脱出できないため、BH-BHの合体では電磁波は出ないと考えられてきた。
ところが、2019年にとらえられた重力波イベント「GW190521」では、BH-BHの合体だったにもかかわらず、重力波源の推定到来エリアの近くで、サーベイ観測プロジェクト「ZTF」のカメラが突発的な閃光現象「ZTF19abanrhr」を検出している(参照:「観測史上最大のブラックホール合体を重力波で検出」/「巨大ブラックホールの隣で起こったブラックホール合体」)。
ZTF19abanrhrがGW190521の対応天体かどうかは今も議論が続いているが、これをきっかけにして、BH-BHの合体で電磁波が放射されるモデルがいくつか提案されるとともに、本当にBH-BH合体で電磁波が出るのか、出るとすればどのくらいの明るさになるのかを観測で見積もる必要が出てきた。
そこで、国立天文台の大神隆幸さんとスペイン・カナリア天体物理研究所(IAC)のJosefa Becerra Gonzálezさんを中心とする研究チームは、2020年2月24日にLIGOとVirgoが検出したBH-BHの重力波イベント「GW200224_222234」(以下GW200224)について、すばる望遠鏡とIACのカナリア大型望遠鏡(GTC)で追観測を行った。
すばる望遠鏡では超広視野主焦点カメラ「HSC」を使い、重力波検出の12時間後に、重力波の推定到来エリアの約91%をカバーする撮像を行って突発天体を探した。これは、BH-BH合体の重力波が到来したエリアをカバーする追観測としては史上最も暗い等級まで写し出した観測となった。
研究チームは、この撮影で見つかった突発天体の母銀河をGTCで分光して距離を測定し、GW200224の対応天体候補を19個同定した。しかし、GW200224との関連が強く示唆される天体はこの中にはなかった。この結果から、2019年のZTF19abanrhrと同じくらい明るい電磁波の現象は、GW200224の近くでは見られなかったと結論された。
「この結果は、ブラックホール連星合体からの電磁波放射現象の多様性を示しています。今後もブラックホール連星合体からの重力波の追観測を行ってその多様性を明らかにしていきたいと思います」(国立天文台 富永望さん)。
LIGO、Virgoによる重力波検出は2015年から2020年にかけて計3期行われ、2020年の第3期運転(O3)の終盤には日本の「KAGRA」も参加した。今年5月からはこの4基による第4期運転(O4)が始まる予定だ。研究チームでは、O4で検出される重力波イベントについても、すばるとGTCを使って追観測を行うことにしている。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:ブラックホールの合体で光は放たれるか?-すばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡の連携による重力波天体の探索
- IAC:Does the merger of two black holes emit light? The Subaru+GTC collaboration tries to answer this question
- The Astrophysical Journal:Follow-up Survey for the Binary Black Hole Merger GW200224_222234 Using Subaru/HSC and GTC/OSIRIS 論文
〈関連リンク〉
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