観測史上最大のブラックホール合体を重力波で検出
【2020年9月8日 LSC】
2019年5月21日にアメリカの2台の重力波検出器「Advanced LIGO」と欧州重力波観測所の重力波検出器「Advanced Virgo」がブラックホール同士の合体による重力波イベント「GW190521」をとらえた。
検出された重力波の持続時間は約0.1秒しかなく、過去に観測されたどのブラックホール合体による重力波よりも短かった。また、ピークの周波数は約60Hzと非常に低い。これらの特徴はどちらも、GW190521で合体したブラックホールの総質量が観測史上最大であることを示すものだ。
研究によると、合体前のブラックホール連星は質量がそれぞれ太陽の約85倍と約66倍で、合体により太陽約8個分の質量が重力波のエネルギーに変換され、太陽質量の約142倍ものブラックホールが形成されたとみられている。この142倍という値は、これまでに重力波イベントで検出されたブラックホールの中では飛び抜けて大きなものだ。それどころか、合体前のブラックホールのうち小さい方の約66倍という数字でさえ、過去に検出された合体後のブラックホールのほとんどを超えている。
GW190521のブラックホールの異常なまでに大きな質量には、単に観測記録を塗り替えたという以上の意味がある。ほぼ全ての銀河の中心に存在すると考えられている「超大質量ブラックホール」の質量は、太陽の数十万倍から数十億倍である。また、恒星が超新星爆発を起こして誕生する「恒星質量ブラックホール」の質量は太陽の数倍から数十倍だ。これらの両者をつなぐ、太陽質量100倍から10万倍程度の「中間質量ブラックホール」は、確実な発見例がほとんどない。合体後に形成された太陽質量142倍のブラックホールは、まさにこの中間質量ブラックホールに該当する点で貴重な存在と言える。
また、GW190521の合体前のブラックホールも非常に興味深いものだ。太陽の65倍の質量を持つブラックホールは130倍の恒星が超新星爆発を起こすことで形成されるが、これ以上元の恒星の質量が大きくなると、「電子対生成」というプロセスにより崩壊の勢いが強くなりすぎて、爆発後に何も残らない(電子対生成型超新星または対不安定型超新星)。恒星の質量がさらに大きく、太陽の200倍を超えるようになると、別の過程により太陽質量の120倍以上のブラックホールを形成するようになる。これらの中間である太陽質量の65~120倍のブラックホールは、直接超新星爆発で作ることはできない。
合体前のブラックホールの質量が太陽の85倍というのは、まさにこの空白地帯に収まっている。つまり、GW190521で合体する前のブラックホールそれ自体が、より小さなブラックホール同士の合体で誕生した可能性があるということだ。このような多重合体が実現するには、星が密集した星団や活動銀河の円盤などといった多数のブラックホールが集まるような環境が必要だ。今回の発見は、そうした合体を繰り返すことで中間質量ブラックホールが生成されること、さらには超巨大質量ブラックホールへも成長している可能性を示唆するもので、ブラックホールの形成や進化を理解するうえで大きな意味を持つだろう。
〈参照〉
- LIGO Scientific Collaborartion:LATEST DETECTIONS
- Virgo:Virgo and LIGO unveil new and unexpected black hole populations
- Public LIGO doc:
- Physcial Review Letters:GW190521: A Binary Black Hole Merger with a Total Mass of 150 Solar mass 論文
- The Astrophysical Journal Letters:Properties and Astrophysical Implications of the 150 Solar mass Binary Black Hole Merger GW190521 論文
〈関連リンク〉
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