波長10光年の重力波検出目指し、パルサーを超精密観測

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超大質量ブラックホールの合体による重力波は波長が数光年にもなり、地球の検出器ではとらえられない。だがパルサーの電波を超精密観測することでこの重力波を検出しようとする試みがある。

【2022年12月8日 熊本大学

2016年に重力波の検出が初めて発表されて以来、レーザー干渉計を用いた検出器によって次々と重力波が観測されている。地上のレーザー干渉計でとらえられる重力波の波長は数百km程度で、これは太陽の数倍から数十倍の質量を持つブラックホール(恒星質量ブラックホール)や中性子星の合体で放出される重力波に相当する。

一方、宇宙ではもっと巨大な天体同士の合体が起こっているかもしれない。私たちの天の川銀河を含むほとんどの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在するが、こうしたブラックホールも合体によって成長したという仮説があるのだ。超大質量ブラックホールの連星による重力波を検出できればこの仮説を確認できるが、この場合の重力波の波長は数光年にもなるため、地球上の装置では検出できない。

だが、はるか彼方にある天体の信号を利用すれば、宇宙スケールの検出器を構築することもできる。超高速で自転しながら電波を規則正しく発する中性子星であるパルサー、中でも電波の周期がミリ秒(1000分の1秒)単位の「ミリ秒パルサー」は信号源としてうってつけだ。たとえば波長10光年の重力波が地球とパルサーの間の宇宙空間を通過した場合、パルサーからの信号は10年周期で変動する。ただしその変化はマイクロ秒(100万分の1秒)単位かそれ以下という小さなものなので、極めて精度の高い観測が要求される。

インド・チェンナイ数理科学研究所のPratik Tarafdarさんたちの研究チームは、インドにある巨大メートル波電波望遠鏡(uGMRT; upgraded Giant Metrewave Radio Telescope)を用いて14個のパルサーを継続的に観測してきた。観測開始から3年半で発表された最初のデータによれば、多くのパルサーで数マイクロ秒、最も良いもので0.759マイクロ秒の精度で到着時刻を測ることに成功している。

uGMRTと電波パルスの観測データ
(背景)電波望遠鏡uGMRT。インドに設置されている電波望遠鏡で、45mのアンテナ30台からなる。100MHz帯から1GHz帯の電波を高感度で観測できる世界最高性能の電波望遠鏡の一つ。(グラフ上)パルサーからの電波パルスの観測データ。横軸が時間、縦軸が周波数、明るい部分ほど電波が強い。周波数300MHz-500MHzにわたって電波パルスが検出されている。(グラフ下)全周波数を合計した電波パルス(提供:熊本大学リリース)

パルサーの信号に影響を与えるのは重力波だけではない。Tarafdarさんたちはパルサーからの電波の到着時刻が周波数により異なることを解析し、宇宙空間を漂う希薄なプラズマの分布や運動をとらえることにも成功した。

今後も1マイクロ秒以内の精度でパルサーの観測を続ければ、10年で重力波を検出できる可能性は高いという。そうすれば、超大質量ブラックホールがいかにして形成されたかという天体物理学における大きな謎が、解明に向けて大きく前進するかもしれない。

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