100億年前の宇宙で成長中の銀河団

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宇宙背景放射観測衛星「プランク」が検出した明るいサブミリ波源をすばる望遠鏡などで観測することで、約100億年前の宇宙にある「原始銀河団」が見つかった。

【2021年11月2日 すばる望遠鏡

現在の宇宙に見られる銀河の大半は、数百から数千個の銀河が集まった銀河団に所属している。いわば銀河の大都市と言える銀河団だが、人間の都市がそうであるように、最初は少人数の集落から始まり、周囲の銀河を取り込みながら成長したと考えられている。今回見つかった「原始銀河団」は、100億年前の宇宙に存在した、そうした銀河の集落だ。

昔の宇宙にさかのぼって原始銀河団を探すのは、それだけ遠くを観測することに相当する。近年は原始銀河団探しが盛んに行われているものの、そのほとんどは可視光線による観測である。こうした可視光線として観測される電磁波は、元々は紫外線として放射され、赤方偏移により波長が伸びたものだ。そして紫外線は塵に遮られやすいため、この方法では塵に覆われた原始銀河団を見落としやすかった。

そこで注目されているのが、比較的波長が短い電波の一種であるサブミリ波である。銀河団が形成されつつある現場では、個々の銀河の中でも活発な星形成が進んでいると考えられるが、星形成が盛んな銀河はサブミリ波で明るく輝くのだ。

国立天文台の小山佑世さんたちの研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関が2009年に打ち上げた宇宙背景放射観測衛星「プランク」が多数発見してきた原始銀河団の候補となるサブミリ波源に注目した。プランクの主目的はビッグバンの残光である宇宙背景放射の観測だが、その過程でサブミリ波を含む複数の波長で全天を観測していた。

小山さんたちはプランクの観測データから、ろくぶんぎ座方向の原始銀河団候補、PHzG237.01+42.50領域(以下、G237領域)を選び、米・ハワイのすばる望遠鏡と米・アリゾナ州の大型双眼望遠鏡(LBT)で追観測した。すばる望遠鏡は星形成銀河が放つ赤い波長のHα線を狙って38個の銀河を、LBTは31個の銀河をとらえ、確かに原始銀河団が存在することが確認された。プランクがとらえたサブミリ波源が実際に原始銀河団だと突き止められたのは初めてのことだ。

G237領域における銀河の分布
PG237領域で同定された銀河。すばる望遠鏡が観測した銀河が黄色の四角、LBTが観測した銀河が水色の丸印で示されている。左は天文衛星「ハーシェル」の遠赤外線(赤)、天文衛星「スピッツァー」の近赤外線(緑)、天文衛星「XMMニュートン」のX線画像(青)を合成した広視野図。黄色の長方形はすばる望遠鏡の観測装置MOIRCSの視野(4分角×7分角)。右は原始銀河団の中心付近。可視光線・赤外線望遠鏡VISTAの画像に、銀河からのHα線に対応する波長で撮影したすばる望遠鏡画像を合成(提供:ESA/Herschel and XMM-Newton; NASA/Spitzer; NAOJ/Subaru Telescope; Large Binocular Telescope; ESO/VISTA; Polletta et al. 2021; Koyama et al. 2021)

「世界中の研究者が、このような宇宙の明るいサブミリ波源の正体、特に原始銀河団との関係性を解明しようと取り組んでいるなかで、すばる望遠鏡によってその重要な一歩が踏み出せたことを素直に喜びたいです」(小山さん)。

すばる望遠鏡の観測データに基づけば、原始銀河団全体での星形成率は天の川銀河の約1000倍と大きい。一方、プランクがとらえたサブミリ波の強さから見積もられる星形成率はさらにその5~10倍と大きい。これは、すばる望遠鏡などが狙ったHαも相当量が塵に隠されていることを示唆している。初期宇宙には、このように塵に覆われた原始銀河団が数多く未発見のまま残されているようだ。