高解像度で解剖、遠方宇宙で成長中の銀河
【2019年5月22日 すばる望遠鏡】
東北大学の鈴木智子さんたちの研究チームが、約110億年前の宇宙に存在する、へび座の方向の原始銀河団USS 1558-003をすばる望遠鏡で観測し、銀河の内部の様子を明らかにする研究を行った。
観測では地球大気の影響による像のボケを補正する補償光学装置と、一部の波長のみを透過する狭帯域フィルターとを組み合わせた新しい手法が用いられ、すばる望遠鏡の大口径と合わせることによって高解像度を達成することに成功した。遠方宇宙に存在する銀河内部の星の分布だけではなく、星形成領域の分布も0.2秒角(視力300相当)という解像度でとらえられている。
今回の観測では一度に11個の星形成銀河について、星と星形成領域の分布が明らかになった。このうち、星質量の大きい星形成銀河では、星形成領域が星の分布に対してより広がっていることがわかった。この結果は、外側に新しい星を作ることによって銀河の構造(星の分布)は内側から外側へと広がっていき、銀河のサイズが大きくなっていくということを示唆している。
この傾向は、銀河同士の相互作用や銀河外縁部のガスの剥ぎ取りといった周辺環境からの影響を受けない、孤立した同時代の銀河にも見られる。つまり、約110億年前の宇宙では、銀河が高密度で存在する原始銀河団領域であっても、大質量の星形成銀河は周囲から何らかの影響を受けて進化しているというよりは、むしろ自身の星形成によって主にその構造を成長させていることを示唆するものである。
「銀河内部の星形成領域の分布は、銀河に働く物理過程を理解する上で鍵となる情報です。より詳細な研究のためには、銀河の平均的な構造を調べるだけではなく、個々の銀河について星形成領域の構造を調べる必要があります。次世代広視野近赤外線装置『ULTIMATE-Subaru』が完成すれば、様々な環境に属するより多くの銀河について個々の構造成長の様子を詳細にとらえることが可能になるでしょう」(鈴木さん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:新手法で「解剖」した成長中の銀河の姿
- Publications of the Astronomical Society of Japan:Extended star-forming regions within galaxies in a dense proto-cluster core at z = 2.53 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2023/09/27 JWSTとアルマ望遠鏡のタッグで、最遠方の原始銀河団をキャッチ
- 2023/03/22 原始銀河団内に予想外の高温ガスを発見
- 2022/10/27 115億年前の初期宇宙で形成中の原始銀河団
- 2022/06/09 あの天体は今:110億年前の銀河たちから始めるシミュレーション
- 2021/11/19 124億年前の星形成銀河でフッ素を検出
- 2021/11/02 100億年前の宇宙で成長中の銀河団
- 2021/01/13 衝突によって星形成能力を失う銀河
- 2020/02/27 予想以上に強い原始銀河団からの赤外線放射
- 2020/01/07 重力レンズの助けなしで発見された最遠の星形成銀河
- 2019/10/10 初期宇宙で初めて見つかった水素ガスの大規模構造「宇宙網」
- 2019/10/02 観測史上最遠、130億光年彼方の原始銀河団
- 2019/08/09 初期宇宙の「見えない」銀河をアルマで多数発見
- 2019/06/25 銀河円盤と同じように回転するハローのガス
- 2018/05/07 予想以上に早かった、銀河団形成の始まり
- 2018/03/07 宇宙は原始銀河団であふれている
- 2017/02/01 遠方の星形成銀河で探る宇宙の泡構造
- 2015/04/21 110億年前の宇宙に近傍最大級の銀河団の祖先
- 2015/04/01 大量に見つかった原始銀河団の候補
- 2013/12/11 酸素ガス放出で星形成が終わる、90億光年彼方の銀河
- 2011/08/10 銀河団中心から離れた領域で「過渡期」を送る銀河を多数発見