X線パルサーを使って宇宙機をナビゲートする

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超小型衛星のX線検出器でかに星雲のパルサーを観測し、衛星の軌道や現在位置を知る自律航法の実証がおこなわれた。GPSなどが使えない深宇宙の航行に役立つかもしれない。

【2026年3月10日 理化学研究所

人工衛星が自分の現在位置を知るには、GPS衛星からの信号を受信したり、地上局との電波通信を利用したりして測位を行う。しかし、地球を離れて惑星間空間や太陽系外縁部まで航行する宇宙機では、GPSや地上局を使わずに自分の位置を求める自律航法が必要になる。

こうした深宇宙での測位方法の一つとして、X線パルサーを利用して位置を推定する「X線パルサー航法」が考えられている。パルサーは電磁波を放射しながら高速で自転する中性子星で、きわめて正確な一定の周期で電磁波のパルスが届くため、この信号を利用して宇宙機の位置を求めるというアイディアだ。

近年では米国と中国のX線観測衛星がX線パルサー航法の実証実験をしていて、2019年には中国の実証衛星「XPNAV-1」がこの手法で平均38kmの精度で現在位置を求めることに成功している。

ただし、これまでの実証研究では大型の衛星や高性能のX線観測装置を使うものが多かった。現実にこの航法を実用化するには、X線検出器は小型軽量・低消費電力でなければならない。また、X線パルサー航法には複数のパルサーの信号を受信して測位する手法もあるが、実際の宇宙機ではX線検出器の視野や搭載数が限られるため、測位に使うパルサーの数は少なく済む方が好都合だ。

理化学研究所の大田尚享さんたちの研究チームは、2023年に打ち上げられた超小型X線観測衛星「ニンジャサット(NinjaSat)」の超小型X線検出器を使い、おうし座の「かに星雲」(M1、距離約6500光年)の中心に存在する「かにパルサー」の信号を利用してX線パルサー航法の実証を試みた。

かにパルサーとニンジャサット
かにパルサーから放射されるX線パルスを利用して測位を行う「ニンジャサット」の想像図(提供:©RIKEN、NASA/CXC/SAO、気象庁(一部改変))

大田さんたちは衛星の位置を求める方法として、1個のパルサーのパルス波形の変化から衛星の軌道の変化を求める「SEPO法」という手法を使った。かにパルサーは1秒間に約30回自転しているため、そのX線パルスは約33.8ミリ秒周期で規則正しく繰り返され、1回のパルスにはX線の強いピークが2つ現れる特徴を持っている。だが、軌道運動する衛星でこのパルサーの信号を受信して波形を描くと、衛星の軌道推定の誤差がX線の到来時刻の誤差となって影響し、X線パルスの波形が崩れる現象が起こる。

「かにパルサー」のX線パルス波形
ニンジャサットが観測した、かにパルサーのX線パルス波形(提供:理化学研究所、以下同)

この「波形の崩れ」の度合いがなるべく小さくなるように、衛星の軌道要素を「ベイズ推定」という方法で試行しながら求めるのがSEPO法だ。大田さんたちはこの手法で衛星の軌道と位置を推定した。得られた衛星軌道の精度はGPSで得られる高精度の位置情報と比較して、X線パルサー航法の精度を見積もった。

解析の結果、軌道推定の精度はパルサーの視線方向については40km以内に収まることが確認された。また、3次元位置の推定精度は衛星の軌道面とパルサーの位置関係によって変わることもわかった。かにパルサーがニンジャサットの軌道面に対して垂直に近い方向にある場合には位置の推定精度は最大370kmまで悪化するが、それ以外の多くの期間では27~53kmの精度で位置を決定できることが示された。

推定軌道と実際の軌道との位置のずれの比較
推定軌道と実際の軌道での位置ずれの比較。初期の軌道情報のみに基づいて求めた位置推定(青)は、時間とともにずれが大きくなる。一方、X線パルサー航法による位置推定(赤)では、衛星がパルサーを使って継続的に自身の位置を修正できるため、時間が経ってもずれが増えず、長期間にわたって安定した軌道の推定ができる

今回、ニンジャサットに搭載されている超小型のX線検出器でX線パルサーを観測したデータから、GPSや地上局に頼らずに衛星の位置を自律的に推定できることが実証された。その測位精度は30~50kmで、地上でのGPSの測位精度(数m)には及ばないものの、1個の天体の観測だけからこれほどの精度で衛星の位置を自律的に決められるのは驚くべき高性能だと大田さんたちは評価している。

今後は、測位に使うパルサーの数を増やしたり解析手法を改良したりすることで、衛星軌道の推定精度をさらに向上できると期待できる。

「天文観測用に開発された超小型X線衛星を応用して、GPSなしで本当に自身の位置を知ることができたのは驚きでした。本物の星が深宇宙で道を教えてくれる、SFのような世界の到来を夢見ています」(理化学研究所 玉川徹さん)。

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