中性子星合体が残したX線、爆発の衝撃波かブラックホールの誕生か

このエントリーをはてなブックマークに追加
連星中性子星の合体に伴う重力波検出「GW170817」では、数日後にX線源が観測された。広がる中性子星合体の破片から発生した衝撃波で加熱された物質からの放射「キロノバ残光」か、合体後にできたブラックホールへ落ちる物質からX線が放射されているためかもしれない。

【2022年3月7日 チャンドラ

2017年8月17日に検出された重力波「GW170817」は、2つの中性子星の合体現象で発生したものだ。重力波検出の数時間後に可視光線と赤外線の放射も検出され、これが中性子星同士の合体で生じると予測されていた爆発現象「キロノバ」であることが確認された。

NASAのX線天文衛星「チャンドラ」はGW170817の直後から観測を続けている。その4年間にわたるデータは、キロノバの性質と合体後の経過について様々なヒントを与えてくれている。

キロノバの残光
X線像とキロノバの残光の想像図(提供:(X-ray) NASA/CXC/Northwestern Univ./A. Hajela et al.; (Illustration) NASA/CXC/M.Weiss)

重力波検出発表の直後、チャンドラはそのときに行っていた観測を中断してGW170817に向けられた。ところが紫外線や可視光線などとは違い、X線では何も検出されなかった。そして9日後の8月26日に再び観測したところ、今度はX線の点光源が見つかった。

このようなX線でのふるまいは、中性子星合体で高エネルギー粒子のジェットが噴出したのだと考えれば説明できるという。ジェットは地球とは違う方向を向いていて、しかも最初は細長かったので、地球には高エネルギーに伴うX線が届かなかった。しかし、ジェットは周囲の物質にぶつかって減速しながら広がった。こうして、チャンドラの視線方向にもX線が入ってくるようになったというわけだ。

ジェットは減速と拡散を続けたので、観測されるX線は2018年初頭から弱まっていった。ところが、2020年3月から2020年末の間にX線の減少は止まり、それから現在に至るまでほぼ一定の強度となっている。「X線の急速な減衰が止まったことは、ジェット以外の何かがX線で検出されていることを示すこれ以上ない証拠でした。私たちが見ているものを説明するには、全く別のX線源が必要なのです」(米・カリフォルニア大学バークレー校 Raffaella Marguttiさん)。

新たなX線源の候補は2つあるが、その1つは「キロノバ残光」と呼ばれる現象だ。中性子星の合体によって超高速でまき散らされた物質が衝撃波を生み、その衝撃波に加熱された物質が発するX線がキロノバ残光で、超新星残骸がX線を発するのに似ている。もう1つの仮説は、合体で誕生したブラックホールが周囲の物質を引き寄せ始め、それによりX線を発生させているというものである。

今回の結果を発表した米・ノースウェスタン大学のAprajita Hajelaさんたちは、引き続きGW170817をX線と電波の両方で監視する予定だ。キロノバ残光を観測しているのであれば、放射される電波は徐々に強くなると予想される。一方、もし新しいブラックホールがX線を発しているのであれば、そのX線は安定し続けるか急減するかのどちらかで、電波は検出されないはずだ。

「キロノバ残光を検出したのであれば、合体後すぐにブラックホールが生まれたわけではないことが示唆されます。そうでなければ、この天体は天文学者たちに、誕生後数年のブラックホールへどのように物質が落下するかを研究する機会を与えてくれるかもしれません」(ノースウェスタン大学 Kate Alexanderさん)。

関連記事