巨大ブラックホールに繰り返し削られる星
2022年6月22日、NASAのガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」(以下「スウィフト」)がさんかく座の方向約5億2000万光年の距離にある銀河「2MASX J02301709+2836050」の中心近くでX線の突発的な増光を検出した。このX線源には「Swift J023017.0+283603」(以下 Swift J0230)という名前が付けられ、ただちに追観測が行われた。
当初、Swift J0230は次第に減光すると予想されていたが、追観測の結果、この天体は7~10日間にわたって明るいX線を放射し続け、その後突然見えなくなるというふるまいを約25日ごとに繰り返すことがわかった。
このような現象は過去にも観測例があり、「準周期性爆発(quasi-periodic eruption; QPE)」や「周期性中心核突発現象(periodic nuclear transient; PNT)」などと呼ばれている。QPEは増光が数時間続く現象で、数十万~数百万太陽質量の超大質量ブラックホール(SMBH)の周りを公転する白色矮星の物質が周期的にはぎ取られてブラックホールに落ち込み、X線が放射されるものと考えられている。PNTも似た現象だが、こちらは増光の継続時間や周期がもっと長く、主に可視光線を放射する。PNTは数千万~数億太陽質量のSMBHの周りを公転する普通の恒星が、繰り返し物質をはぎ取られる現象だと推定されている。
Swift J0230を検出した英・レスター大学のPhil Evansさんを中心とする研究チームは、今回の規則的な増光現象はQPEとPNTの中間的な性質を持っていて、この2種類の現象の間をつなぐ「ミッシングリンク」というべき新現象をとらえたのだと考えている。
EvansさんたちはQPEとPNTのモデルを使って解析を行い、Swist J0230は太陽と同程度の質量を持つ恒星が、銀河中心にあるSMBHの周りを楕円軌道で公転しているのだと結論づけた。恒星がブラックホールに近づくたびに、地球質量の約3倍の物質が恒星の大気からはぎ取られ、ブラックホールに落ち込みながら加熱される。落ち込んだ物質は約200万度に達し、強いX線が放射されるというのだ。
研究チームの解析では、このブラックホールの質量は約20万太陽質量かそれ以上と推定されていて、銀河中心のSMBHとしてはかなり小さい。私たちの天の川銀河の中心ブラックホールは約400万太陽質量、典型的なSMBHの質量は数億太陽質量だ。
「今回の発見は、太陽に似た恒星が、比較的小さなSMBHに繰り返し物質をはぎ取られて飲み込まれつつある現象を初めてとらえたものです。いわば『反復型の部分的潮汐破壊』というべき、全く新たな発見です。これまでに知られている2種類の現象は、数時間おきに発生するか、または年単位の周期を持つもので、今回の現象はこれらの中間に相当します。詳しく計算すると、関連する天体のタイプもちょうどこれらの現象の間を埋めるようなものであることがわかります」(Evansさん)。
EvansさんたちはスウィフトのデータからX線の突発現象をリアルタイムで検出する新たなシステムを開発し、今回のSwift J0230がこのシステムでの初の検出となった。
「このタイプの天体は、私たちがこの新しいシステムを開発するまで、本質的に検出不可能なものでした。新システムの運用を始めてすぐに今回の現象が見つかりました。スウィフトは20年近く運用されていますが、今回突然、全く新たな現象が見つかったのです。宇宙を見る新しい方法を見つければ、必ず何かしら新しい未知のものを見つけられる、ということを示す結果だと考えています」(Evansさん)。
〈参照〉
- University of Leicester:Ravenous black hole consumes three Earths’-worth of star every time it passes
- University of Leeds:Ravenous black hole takes bites out of star
- NASA Goddard:NASA’s Swift Learns a New Trick, Spots a Snacking Black Hole
- Nature Astronomy:Monthly quasi-periodic eruptions from repeated stellar disruption by a massive black hole 論文
〈関連リンク〉
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