ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る
【2022年7月29日 すばる望遠鏡】
広大な宇宙の奥行きを測るためには、あらかじめ真の明るさがわかっている「標準光源」と呼ばれる天体が利用される。観測された標準光源の見かけの明るさを真の明るさと比べることで、標準光源までの距離、ひいては同じ領域にある他の天体までの距離を知ることができる。現在知られている標準光源で最も遠くまでをカバーできるのはIa型超新星だが、最遠で110億光年離れたものまでしか観測できていない。さらに遠い距離を測れる標準光源の候補として挙がっているのが、宇宙で最も明るい爆発現象であるガンマ線バーストだ。
ガンマ線バーストではその名のとおりガンマ線が突発的に数秒程度放出され、その後数日間にわたって様々な波長で残光が観測される。残光は爆発後の残り火のようなものだ。国立天文台のMaria Dainottiさんたちの研究チームは、残光の明るさの時間変化からガンマ線バーストの真の明るさを求められるのではないかと考えてきた。
ガンマ線バーストの残光は時間とともに暗くなっていくが、一部のバーストでは残光がほぼ一定の明るさを保つ「プラトー」と呼ばれる期間がある。DainottiさんたちはこれまでX線観測データに基づき、「ピークの明るさ」「プラトーの継続時間」「プラトー終了時の明るさ」という3つのパラメーターに一定の関係があることを示していた(参照:(「宇宙の距離を測定する最長の「ものさし」」)[/article/hl/a/11655_kilonova_grb])。
Dainottiさんたちは500個のガンマ線バーストについて、すばる望遠鏡などで観測された可視光線データを解析し、179個の残光にプラトーを見つけた。そこでX線での研究と同様に、3つのパラメーターで3次元のグラフを作ると、179個の点はほぼ1つの平面に集まることを示した。この関係を利用すれば、ガンマ線バーストの真の明るさを求めることができ、さらに距離も計算できることになる。その限界はIa型超新星よりもさらに遠い、132億光年先だという。
また、これまでX線について行われてきた分析に可視光線のデータを加えると、距離をより正確に測定できるようになるという。実際、宇宙の膨張率などの宇宙論パラメーターがより高い精度で求められることが、シミュレーションから明らかになった。
従来の研究では、なぜ3つのパラメーターのグラフが1つの平面の周りに集まるのかを説明できなかった。今回、異なる波長帯で分析したことで、ガンマ線バーストの物理的なメカニズムについても新たな知見が得られた。プラトーを示す179個のガンマ線バーストは、超強力な磁場を持ち高速で回転する中性子星「マグネター」に由来する可能性が高いと結論づけられている。
「今回、可視光線で初めて発見された3次元的な相関関係は、選択バイアスや赤方偏移によらない本質的なものです。そのため、これらの特徴を示す179個のガンマ線バーストに共通する放射メカニズムを特定することができるのです。将来的には、高い精度で宇宙論パラメーターを求められる、宇宙論的な標準光源として利用できると考えられます」(Dainottiさん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る
- The Astrophyshisical Journal Supplement Series:The Optical Two- and Three-dimensional Fundamental Plane Correlations for Nearly 180 Gamma-Ray Burst Afterglows with Swift/UVOT, RATIR, and the Subaru Telescope 論文
〈関連リンク〉
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