100億光年彼方のショートガンマ線バーストの残光
【2020年7月17日 ジェミニ天文台】
2018年11月23日、NASAの観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」がかみのけ座の方向で発生したショートガンマ線バースト「GRB181123B」を検出した。宇宙最大規模の爆発現象であるガンマ線バーストのうち、ショートガンマ線バーストはガンマ線の放出が数秒以内に終わるもので、中性子星やブラックホールなどの高密度天体同士の合体に伴って発生すると考えられている。
米・ノースウェスタン大学・天体物理学学際探査研究センターのKerry Patersonさんたちの研究チームは、ニール・ゲーレルス・スウィフトが発したアラートから数時間のうちに米・ハワイのジェミニ北望遠鏡で観測を実施し、GRB181123Bのかすかな残光をとらえた。ガンマ線バーストの後しばらくは可視光線などの残光が発生しているので、なるべく素早くこの残光を観測して分析することが重要となる。「ジェミニ北望遠鏡と多天体分光装置『GMOS』の持つ、反応の速さと高い感度という能力を利用して、発見からほんの数時間後に残光を詳細にとらえることができました。画像が非常に鮮明だったおかげで、このバーストが特定の銀河内に位置することがわかりました」(Patersonさん)。
追観測により、GRB181123Bが発生した銀河までの距離は約100億光年であることが判明した。この距離は、これまでに観測されたショートガンマ線バーストの中で2番目に遠く、可視光線波長の残光が検出された信頼度の高いショートガンマ線バーストとしては最も遠いものとなる。
これまでに発生源までの距離が計測できたショートガンマ線バーストは43個あるが、その多くは比較的私たちに近いところで発生している。遠方で発生したショートガンマ線バーストの観測は、宇宙が非常に若く、星や銀河の形成と成長が急速に進んでいた時代における同種の現象を研究する上で大いに役立つものとなる。
〈参照〉
- Gemini Observaotry:Gemini Observatory's Quick Reflexes Capture Fleeting Flash
- Northwestern University:Short gamma ray burst leaves most-distant optical afterglow ever detected
- The Astrophysical Journal Letters:Discovery of the Optical Afterglow and Host Galaxy of Short GRB 181123B at z = 1.754: Implications for Delay Time Distributions 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/07/16 観測データと機械学習の組み合わせでガンマ線バーストの距離測定精度が大幅向上
- 2024/02/26 中性子星合体によるショートガンマ線バーストの駆動機構を解明
- 2024/02/21 高速電波バーストの謎に迫るマグネターの双子グリッチ
- 2023/12/04 X線突発天体監視速報衛星「こよう」、打ち上げ成功
- 2023/12/01 ガンマ線と可視光線偏光の同時観測で迫る光速ジェット
- 2023/10/17 中性子星で起こる、地球の地震とそっくりの余震
- 2023/07/14 中性子星合体から1秒間の変化を高精度シミュレーション
- 2023/04/05 数千年に一度、史上最強のガンマ線バースト
- 2022/12/16 ガンマ線バーストの爆発エネルギーは従来予測の約4倍
- 2022/12/15 常識をくつがえすハイブリッド型のガンマ線バースト
- 2022/11/29 マグネターの超強磁場、X線偏光で初めて観測的に確認
- 2022/11/02 中性子星の合体でレアアースが作られていた
- 2022/10/24 観測史上最強規模のガンマ線バーストが発生
- 2022/10/19 中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット
- 2022/08/10 アルマ望遠鏡、ガンマ線バーストの残光をミリ波で初観測
- 2022/08/01 一見孤立したガンマ線バースト、実は遠方銀河の中にいた
- 2022/07/29 ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る
- 2022/03/07 中性子星合体が残したX線、爆発の衝撃波かブラックホールの誕生か
- 2021/12/10 X線偏光観測衛星「IXPE」、打ち上げ成功
- 2021/12/02 ブラックホールから生じる「ねじれた」ガンマ線