超小型衛星「ニンジャサット」、史上6例目の珍しい中性子星を観測
【2025年6月3日 東京理科大学】
ブラックホールや中性子星などのX線天体の観測は、これまで主に大型の衛星が用いられてきたが、理化学研究所の玉川徹さんたちの研究チームが用いているX線衛星「ニンジャサット(NinjaSat)」は、両手で抱えられるほどの超小型衛星「キューブサット」の一つだ。
(上)完成時の「ニンジャサット」(大きさ30cm×20cm×10cm)。(下)軌道上の衛星の想像図(提供:理化学研究所)
2023年11月に打ち上げられたニンジャサットが科学観測を開始する2日前の2024年2月21日、コンパス座の方向約3万3000光年の距離にある新天体「SRGA J144459.2-604207」(以降、SRGA J1444)がX線バーストを起こし、別の天文衛星によって検出された。そこで玉川さんたちは当初の観測計画をキャンセルし、SRGA J1444の観測を行った。大型衛星では多くの研究者によるスケジュールがいっぱいで柔軟な対応や長期観測が難しいが、ニンジャサットは迅速な計画変更が可能な超小型衛星の高い機動力を活かし、25日間にわたってSRGA J1444を観測した。
SRGA J1444の想像図(提供:東京理科大学リリース)
発見直後、SRGA J1444はX線で数十秒だけ突然明るくなるX線バーストを何度も起こし、その発生間隔は時計で計ったように規則正しく約1.7時間であった。このことからSRGA J1444は、恒星と中性子星からなる連星系のうち観測史上6例目という非常にまれな「クロックバースター(clocked burster)」であることが示唆された。
ニンジャサットの観測により、SRGA J1444の定常X線放射が時間とともに徐々に暗くなっていき、それに従ってX線バーストの発生間隔が当初の1.7時間から徐々に長くなっていったことがわかった。天体がX線で暗くなったということは、伴星から中性子星に降り積もる物質が減り、X線バーストを発生させる燃料がたまりにくくなることを意味している。そのため、爆発するまでに時間がかかり、X線バーストが起こる間隔が徐々に長くなったのだろう。このX線の明るさとX線バーストの発生間隔の関係から、SRGA J1444は太陽の2倍以上の質量を持ち、限界質量に近い中性子星であると考えられる。
(上)ニンジャサットが観測したSRGA J1444のX線強度変化。(下)SRGA J1444のX線の明るさとバースト発生時間間隔の関係。SRGA J1444が暗くなると、バーストの発生間隔が長くなっている(提供:RIKEN/Souichi Takahashi、以下同)
SRGA J1444では、時間が経って暗くなるほどバーストの立ち上がりが短くなり、バーストの継続時間が短くなるという特徴も明らかになった。SRGA J1444のバースト継続時間は約20秒だが、これまでに発見されたクロックバースターでは40秒程度だ。継続時間が短いことは、中性子星に降り積もる物質が水素ではなくヘリウムに富んでいることを示唆している。このようなクロックバースターの観測例は初めてである。また、分析によるとSRGA J1444の金属(ヘリウムより重い元素)の量は太陽の4倍も多く、そのような組成を持つクロックバースターも観測史上初ということだ。
SRGA J1444のX線バーストの特徴。日時の経過につれてバーストの形状(凸状の部分)が少しずつ変化している
関連記事
- 2024/02/26 中性子星合体によるショートガンマ線バーストの駆動機構を解明
- 2024/02/21 高速電波バーストの謎に迫るマグネターの双子グリッチ
- 2023/10/17 中性子星で起こる、地球の地震とそっくりの余震
- 2023/07/14 中性子星合体から1秒間の変化を高精度シミュレーション
- 2022/12/15 常識をくつがえすハイブリッド型のガンマ線バースト
- 2022/11/29 マグネターの超強磁場、X線偏光で初めて観測的に確認
- 2022/11/02 中性子星の合体でレアアースが作られていた
- 2022/10/19 中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット
- 2022/08/01 一見孤立したガンマ線バースト、実は遠方銀河の中にいた
- 2021/12/10 X線偏光観測衛星「IXPE」、打ち上げ成功
- 2021/12/02 ブラックホールから生じる「ねじれた」ガンマ線
- 2021/10/26 X線バーストの核融合を再現する新手法
- 2021/07/05 中性子星とブラックホールの合体に伴う重力波を初観測
- 2021/05/19 せいめい望遠鏡の新システム「TriCCS」が本格稼働
- 2021/05/18 中性子星内部の状態を実験室で再現、硬さを測定
- 2021/01/22 10年間隔の画像を比較して超新星爆発の年代を逆算
- 2020/12/03 ガンマ線連星中のコンパクト天体はマグネターの可能性
- 2020/11/27 宇宙の距離を測定する最長の「ものさし」
- 2020/10/09 マグネターと電波パルサーをつなぐ中性子星
- 2020/08/04 超新星1987Aの塵の輝き、幻の中性子星か