X線偏光観測衛星「IXPE」、打ち上げ成功

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X線の偏光を観測することに特化した初めての天文衛星「IXPE」が打ち上げられた。X線天文学の最後のフロンティアと言われる偏光観測を開拓することが期待される。

【2021年12月10日 NASA山形大学

NASAとイタリア宇宙機関(ISA)のX線偏光観測衛星「IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)」は、スペースX社のファルコン9ロケットに搭載され、日本時間12月9日午後3時に米・フロリダ州ケネディー宇宙センターから打ち上げられ、赤道上空の高度600kmを回る軌道に投入された。

IXPEの打ち上げ
IXPEの打ち上げ(提供:NASA/Joel Kowsky)

IXPEはX線の偏光(電磁波における波の向きの偏り)の観測に特化した世界初の衛星だ。

ブラックホールや中性子星、超新星残骸などが発するX線は、1960年代にX線天文衛星が実現して以来、さかんに研究されてきた。その中にあってX線偏光の重要性は当初から認識されていたものの、検出が難しいため未開拓の状態が続いている。1975年に打ち上げられたNASAの観測衛星OSO-8にはX線編光計が搭載されたが、感度が足りず、強力なX線源である超新星残骸M1(かに星雲)で偏光を検出しただけにとどまった。

IXPEにはOSO-8よりも2桁高い感度の偏光計が3台搭載され、それぞれのために同じ性能のX線望遠鏡が3台備えられている。衛星の開発と組み立ては米伊によって実施されたが、日本からも理化学研究所がX線偏光計の心臓部である「ガス電子増幅フォイル」を、名古屋大学がX線望遠鏡の「受動型熱制御薄膜フィルター」を提供している。また、20人を超える日本の科学者や大学院生が打ち上げ後の天体観測やデータ解析を行うために参加する。

軌道上のIXPEの想像図
軌道上のIXPEの想像図。全長約5m、X線望遠鏡3台と、それぞれの焦点面に3台のX線偏光計を搭載している(提供:NASA

X線偏光によって得られる知見は、X線の強度やエネルギーを分析してきた従来の観測の延長線上ではなく、全く質の異なるものになると期待されている。

たとえば、ブラックホールに吸い寄せられた物質は落下の過程で降着円盤と呼ばれる円盤を形成し、摩擦で加熱されてX線を発するようになるが、このX線の波は円盤面に平行な方向に偏ると考えられる。つまり、X線の偏光をとらえれば、通常は観測できない降着円盤の構造が見えてくるのだ。また、磁場やブラックホールの重力による時空の歪みなどもX線の偏光に影響を与えるため、IXPEの観測で研究が可能となる。

IXPE衛星は機能・性能評価を経て、1月に観測を開始する予定だ。最初の数か月~半年程度の観測で多くの新発見があると期待される。運用期間は約2年間の予定だが、衛星の機能が維持されている限り延長される。

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