中性子星表面の核融合による特大爆発「スーパーバースト」
【2025年7月3日 東京理科大学】
近年の宇宙観測では、突発的に増光し明るさが変化する天体(突発天体)を観測・研究する「時間軸天文学(Time Domain Astronomy)」が一つの大きな潮流になっている。2024年2月から観測を開始した理化学研究所の超小型X線観測衛星「ニンジャサット(NinjaSat)」は、小型ならではの高い機動力により、観測スケジュールを臨機応変に調整して突発天体の追観測を迅速に行えることから、観測1年足らずで史上6例目の珍しい中性子星を観測するなど、時間軸天文学に貢献しつつある。
2024年11月9日、国際宇宙ステーションの全天X線監視装置「MAXI」が、さいだん座の方向に新天体「MAXI J1752-457」(以下、MAXI J1752)を発見した。この発見報告から2.5時間後、ニンジャサットは実施中だった観測を中断してMAXI J1752の即応観測を開始した。この観測ではニンジャサットの機動力に加えて、太陽に近いところまでも観測可能であるというニンジャサットの利点も活かされた。
観測の結果、MAXI J1752のX線強度が減衰する時間スケールが15時間であること、X線スペクトルが温度2キロ電子ボルトの黒体放射であることがわかった。これらの特徴は、低質量のX線連星系にある中性子星の表面で核融合が起こった際に発生する「X線バースト」と一致するものである。
MAXI J1752のX線強度と中性子星の表面温度の時間変化(提供:東京理科大学リリース、以下同)
長時間にわたって続いた今回の増光は、水素の核融合である通常のX線バーストではなく、炭素の核融合で生じた特大の爆発「スーパーバースト」とみられる。これまでにX線バーストは約120個が観測されているが、スーパーバーストの検出例はMAXI J1752が17個目(超小型衛星での検出は初)という特に珍しいものだ。理論モデルでもこの説は裏付けられ、初期の中間ロングバーストから長く続くスーパーバーストに変化する奇妙な振る舞いが説明されている。
中性子星の表面で発生するスーパーバースト。(左)想像図、(右)模式図
今回観測されたX線バーストを起こす中性子星は宇宙に多く潜んでいる。ニンジャサットのような超小型衛星を活用した観測が、X線連星の進化の理解や時間軸天文学の進展につながることが期待される。
〈参照〉
- 東京理科大学:中性子星表面の核融合「スーパーバースト」を観測 - キューブサットX線衛星NinjaSatが新天体の解明に貢献 -
- The Astrophysical Journal Letters:Thermonuclear superburst of MAXI J1752-457 observed with NinjaSat and MAXI 論文
- MAXI News:X-ray nova MAXI J1752-457
- ATel:
〈関連リンク〉
- 理化学研究所
- 全天X線監視装置(MAXI):
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