CALET、宇宙線のホウ素を高精度でとらえる
【2022年12月27日 早稲田大学】
私たちが知る元素の多くは恒星の内部で核融合により作られたものだが、核融合では生成されにくい元素もある。そうした元素は、超新星爆発などによって他の元素の原子核が高速に加速され「宇宙線」として飛散した際、星間ガスと衝突することで二次的に生成されたのだと考えられる。
なかでもホウ素(B)は、宇宙線が生成されてから地球に到達するまでの歴史を理解する鍵としてよく観測されてきた。ホウ素は、もう少し重い元素である炭素(C)が星間物質と相互作用して生成される確率が高い。つまり、両者の比(B/C)を観測すれば、宇宙線が天の川銀河の中をどれくらいの距離と時間で伝播しているかがわかる。
ここで重要なのは、様々なエネルギー帯でB/Cを調べることだ。天の川銀河の中は磁場で満たされているが、宇宙線のエネルギーが高いほど磁場の影響を受けにくいため、発生源から地球までまっすぐ届きやすい。結果として高エネルギーの炭素ほど星間物質と衝突する機会が少なく、そのまま地球に到達するので、宇宙線で高エネルギーのホウ素が見つかる確率は低くなり、高エネルギーでのB/Cは減少する。この割合を詳しく調べることは、銀河磁場の構造や星間物質の分布を知ることにもつながるはずだ。しかし、高エネルギーになると宇宙線中のホウ素は炭素の数%ほどに減少するため、観測は難しい。
そこで、伊・フィレンツェ大学のOscar Adrianiさんたちの研究チームは、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置されている宇宙線電子望遠鏡「CALET」でB/C比を観測した。CALETはこれまでに高エネルギー領域での高精度観測で多くの成果を挙げている。
CALETは8.4ギガ電子ボルトから3.8テラ電子ボルトという広いエネルギー領域で、ホウ素と炭素の流量をそれぞれ調べ、B/C比を高精度で求めた。この高エネルギー側での観測により、これまで未解決だった、宇宙線が加速される超新星残骸におけるホウ素の生成量が定量的に評価された。
今回の観測により、これまで謎につつまれていたホウ素の起源を定量的に明らかにするために不可欠なデータが得られた。そのうえで、ホウ素のように二次的に生成される宇宙線は、星の元素合成で一次的に生成される宇宙線に比べて少ないため、今後も観測量を増やして精度を上げること、およびさらなる高エネルギー領域での観測が必要となる。
〈参照〉
- 早稲田大学:銀河系を伝播する宇宙線を高精度観測
- Physical Review Letters:The Cosmic-ray Boron Flux Measured from 8.4 GeV/n to 3.8 TeV/n with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station 論文
〈関連リンク〉
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