テレスコープアレイ実験史上最大の超高エネルギー宇宙線
【2023年11月30日 東京大学宇宙線研究所】
宇宙からは絶えず高エネルギーの粒子である宇宙線が降り注いでいる。そのうち非常に高いエネルギーを持つものは、ガンマ線バーストや活動銀河核中心のブラックホールといった激しい現象や天体が起源だと予想されており、観測研究が続けられている。
大阪公立大学および南部陽一郎物理学研究所の藤井俊博さんたちの研究チームは2021年5月27日、米・ユタ州で稼働中の宇宙線観測実験「テレスコープアレイ実験」で、極めて高いエネルギーをもった宇宙線を検出した。テレスコープアレイ実験は計507台の検出器で700平方km範囲に到来する高エネルギー宇宙線を定常観測しているが、このうち23台の検出器によってほぼ同時に連続的に信号が検出された。これは、もともと1つの超高エネルギーの宇宙線が地球大気に衝突し、多数の二次粒子が生成される「空気シャワー」と呼ばれる現象が起こったことを示す結果だ。
藤井さんたちは各検出器で検出された信号の大きさとわずかな時間差から空気シャワーのエネルギーと到来方向を算出し、エネルギーの大きさを244エクサ電子ボルト(2.44×1020電子ボルト)と見積もった。2008年から定常観測を続けているテレスコープアレイ実験では、2020年にも1020電子ボルトのエネルギーを放つ「極高エネルギー宇宙線」の観測に成功しているが、今回のものはこれを超える、本実験史上最高のエネルギーだ。
また、到来方向はヘルクレス座とへびつかい座の境界付近らしいと推測されている。宇宙線は電気を帯びているため、通常は宇宙磁場によって曲げられてしまうので、方向から発生源を特定するのは難しいが、今回のように超高エネルギーの場合はほぼ直進できるので、発生源は到来方向によって示される。今回の場合、到来方向は天の川銀河近傍で物質がほとんど存在しない巨大な領域「局所的空洞(ローカルボイド)」に当たり、宇宙線の起源となる有力な候補天体がないエリアだ。そのため、検出された高エネルギー粒子の起源として、未知の天体現象や暗黒物質(ダークマター)の崩壊などの可能性もあるという。
今回検出された宇宙線は、信号の発見者が日本人で現地時間が明け方であったことや、今後も同様の超高エネルギー宇宙線の検出が期待されることから「アマテラス(天照)粒子」と名付けられた。「この極めて高いエネルギーの宇宙線を初めて見つけたとき、何かの間違いだろうと思いました。その後、到来方向に候補天体が見つけられず残念に思うと同時に、ではこの宇宙線はどこから来たのか、という新しい謎が見つかったワクワク感を覚えています。今後は、稼働中のテレスコープアレイ実験拡張計画や、次世代実験によって極高エネルギー宇宙線の発生源を明らかにしたいと考えています」(藤井さん)。
〈参照〉
- 東京大学宇宙線研究所:テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出
- Science:An extremely energetic cosmic ray observed by a surface detector array 論文
〈関連リンク〉
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