プラズマの波が宇宙線を効率的に加速する
【2023年4月7日 九州大学】
地上や地球周辺で観測される宇宙線の中には、極めて高いエネルギーを持つものがある。天の川銀河の磁場では閉じ込められないほどのエネルギーなので、こうした高エネルギー宇宙線は天の川銀河の外から飛来したと考えられているが、その起源はわかっていない。生成現場の候補としては、超新星爆発、活動銀河核、銀河団、ガンマ線バーストなどが挙げられる。
これらの中には、振幅の大きなプラズマ波が宇宙線の生成に深く関与していると考えられているものもある。その一つが、非常に強力な磁場を持つ中性子であるマグネターだ。マグネターの表面で、地球でいう地震に相当する「星震」が起こると、磁気圏内で強い磁気を帯びた大振幅の波「アルベン波」が励起されると考えられている。しかし、どのようにして波のエネルギーが宇宙線のエネルギーに変換されるのかは、未解明のままだった。
九州大学の諌山翔伍さんたちの研究チームは、波から粒子へのエネルギー変換機構として、2つのアルベン波が衝突する状況に着目し、シミュレーションを行った。その結果、波が衝突すると、その場に存在するイオンの多くが、元のエネルギーに関係なく、ごく短い時間の間にエネルギーを得て加速されることが示された。これは、アルベン波から粒子であるイオンへと極めて効率的にエネルギーが受け渡されていることを意味する。波の振幅がある程度大きくなると、イオンが得るエネルギーは全体の70~80%を占めるほど高くなった。
マグネターでこの現象が起こる状況としては、磁力線を伝わる2つの波が衝突する場合や、1つの波が磁力線の根元で反射する場合が考えられる。また、振幅の大きな波が崩壊する過程でも同じ状況が発生する。そのため、この粒子加速機構は様々な天体において宇宙線生成に関わっている可能性がある。
〈参照〉
- 九州大学:宇宙線加速の新たな理論モデルを構築-波のエネルギーを宇宙線エネルギーに変換-
- The Astrophysical Journal:Acceleration of Relativistic Particles in Counterpropagating Circularly Polarized Alfvén Waves 論文
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