CALET、宇宙線の鉄・ニッケル成分を測定
【2022年4月22日 JAXA】
私たちの天の川銀河内を起源とする宇宙線(銀河宇宙線)は「超新星爆発に伴う衝撃波で加速され、銀河内を星間磁場により拡散的に伝播して地球に飛来する」という標準モデルによる理解が進んでいる。このモデルに基づくと、飛来する宇宙線は高いエネルギーになるほど一定の割合で減っていき、スペクトル(横軸にエネルギー、縦軸に流束を取ったグラフ)は指数関数の形状となるはずだ。
ところが近年の観測では、宇宙線として飛来する粒子のうち陽子やヘリウム、炭素、酸素などの比較的軽い原子核に注目すると、高エネルギーの宇宙線が予想より多くなる「スペクトル硬化」が報告されている。これは宇宙線の加速伝播機構に新たな仮説を導入した理論モデルの必要性を示唆する結果だ。
現象解明の重要な鍵となるのが、星の核融合反応による元素合成の最終段階で生成される鉄とニッケルだ。これより重い原子核は、星が超新星爆発を起こす直前にはほとんど存在しないため、鉄とニッケルが星の進化の最終段階や加速機構の直接的な情報をもたらす重要な宇宙線成分となっている。
早稲田大学の赤池陽水さんたちの研究チームは、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に設置された宇宙線電子望遠鏡CALETを使って鉄とニッケルの宇宙線エネルギースペクトルを調べた。CALETは高エネルギーの宇宙線を高い精度で測定することに特化している装置で、これまでに数々の成果を挙げている(関連記事を参照)。
観測の結果、鉄とニッケルの宇宙線エネルギースペクトルは測定範囲内で指数関数状になっていて、軽い原子核のようなスペクトルの硬化は見られなかった。宇宙線の加速伝播機構の標準モデルを支持する結果であるとともに、スペクトル硬化の原因についても示唆を与えるものとなりそうだ。今後はシミュレーション計算や他の装置による観測結果との比較などを通して、今回の観測結果に残る系統誤差を検証する予定である。
〈参照〉
- JAXA:宇宙線の鉄・ニッケル成分の最高エネルギー領域に至るスペクトルを測定
- Physical Review Letters:論文
- Measurement of the Iron Spectrum in Cosmic Rays from 10 GeV/n to 2.0 TeV/n with the Calorimetric Electron Telescope on the International Space Station
- Direct Measurement of the Nickel Spectrum in Cosmic Rays in the Energy Range from 8.8 GeV/n to 240 GeV/n with CALET on the International Space Station
〈関連リンク〉
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