宇宙線電子の高エネルギースペクトルに、ほ座超新星残骸が大きく寄与

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国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の宇宙線電子望遠鏡「CALET」が、7.5TeVに至る宇宙線電子のエネルギースペクトル測定に成功した。高エネルギー領域では電子加速源候補として「ほ座超新星残骸」の寄与が大きい可能性が示唆されている。

【2023年12月18日 早稲田大学

天の川銀河内を起源とする「銀河宇宙線」は、超新星爆発に伴う衝撃波で加速され、星間空間の磁場中を拡散的に伝播して地球に飛来すると考えられている。しかし、宇宙線は伝播中に星間磁場で曲げられてしまうため、加速領域の特定が難しく、宇宙線には未だ多くの謎が残されている。

とくに高エネルギーの電子は陽子や原子核と異なり質量が小さく、星間空間を伝播中にエネルギーを失ってしまうため、地球近傍の伝播時間の短い加速源からのものだけしか地球に到達できないが、この条件を満たす加速源の候補天体は数例しかない。

一方で、電子のエネルギーが1TeV(テラ電子ボルト)を超えると、荷電粒子から加速源を同定できるというユニークな可能性が理論的に指摘されている。つまり、TeV領域の電子が観測されれば、それが地球近傍の候補天体の寄与によるものということになる。従来このような観測は難しかったのだが、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に設置されている宇宙線電子望遠鏡「CALET」によって、これまでにない高精度なエネルギースペクトルの測定が可能になってきた。

CALETの概念図
CALETの概念図(左)と主検出器のカロリメータ(提供:JAXA/早稲田大学)

早稲田大学の赤池陽水さんたちの研究チームは、CALETを用いた測定により、宇宙空間において初めてTeV領域電子の観測に成功しており、2年間の観測量から4.8TeVまでのエネルギースペクトルの測定に成功するなどの成果を上げてきた。

今回赤池さんたちは、CALETの測定データを精確に再現するようにシミュレーションデータを調整し、電子と陽子の選別精度の向上を計った。その結果、7年以上のデータに対して、電子の選別効率を保ちつつ陽子の混入を10%未満に抑えるという改良に成功し、7.5TeVに至る高エネルギースペクトルが導出された。

7.5TeVまでの電子のエネルギースペクトル
CALETによる7.5TeVまでの電子のエネルギースペクトル(赤い四角)(103のところが1TeV)。他の衛星による測定結果も提示(出典:O. Adriani et al. 2023、以下同)

さらに、個々の天体を起源とする宇宙線伝播のシミュレーションから、とくに地球近傍の電子加速源候補である「ほ座超新星残骸」がTeV領域の電子に対して大きく寄与している可能性が示された。

全電子のスペクトルと個々の加速源候補天体の寄与
CALETによる全電子のスペクトル(赤丸)と、個々の加速源候補天体の寄与のグラフ。特にほ座超新星残骸(黄色の線、Vela)がTeV領域の電子に大きな影響を与えている

研究チームは今後、到来方向の異方性を合わせて検出することで、近傍加速源の同定を目指す。加速源が同定できれば、そのスペクトル形状から加速・伝播の理解に重要なパラメーターを調べられるようになり、宇宙線の加速・伝播機構の解明が進むと期待される。

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