太陽活動に伴う宇宙線量の変化にドリフト効果が大きな役割

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太陽系外から地球に飛来する宇宙線は22年周期で変化する。その要因は、太陽周辺の磁場中を進む宇宙線に働く「ドリフト効果」であることが、宇宙線電子望遠鏡「CALET」による観測などからわかった。

【2023年6月5日 早稲田大学

太陽系外から超高速で飛来する粒子である宇宙線の量は、太陽からのプラズマ風や磁場によるバリアの効果で増減するため、太陽の活動周期に合わせて変動している。「宇宙線の太陽変調」と呼ばれるこの現象は、1950年代から観測が続けられており、同時に理論モデルの研究も進められている。

宇宙線の太陽変調は約22年周期で、ちょうど太陽の活動周期の倍だ。これは、太陽活動の11年周期ごとに、太陽磁場のN極とS極が反転することによる。宇宙線の大部分は正の電荷を持った陽子で、負の電荷を持った電子も少量ながらある。そうした電荷を帯びた粒子の動きは磁場に影響されるため、約22年で元に戻る太陽磁場の向きが太陽変調に反映されているのだ。宇宙線の陽子に着目すると、11年周期ごとにピークがなだらかな場合(下図で赤い期間)と鋭い場合(青い期間)を繰り返している。

宇宙線陽子の量と太陽黒点数の変動
地上に置かれた宇宙線計(中性子モニター)とCALET(右端の赤点線)による宇宙線量と太陽黒点数の変動。赤と青の塗りつぶし期間は、太陽磁場極性が同一の期間を示している(提供:早稲田大学リリース)

荷電粒子は磁力線に巻き付くようにしてらせん状に進むが、場所によって磁場の強さが異なったり、磁力線がカーブしていたりすると、らせんの中心は磁場と垂直な方向にずれていく。この現象は「ドリフト効果」と呼ばれ、磁場の向きが変われば作用する方向も変わる。11年周期ごとにピークの形状が変わるのも、ドリフトの向きが反転するからだと考えられる。だが、太陽活動は磁場極性以外にも周期ごとに様々な違いがあり、宇宙線量の変動の違いがドリフト効果によるものだという確かな証拠をとらえることは困難だった。

ドリフト効果は粒子の電荷が正と負の場合に逆向きに働く。陽子のなだらかなピークと鋭いピークの繰り返しがドリフト効果によるのであれば、正の電荷を持つ陽子と負の電荷を持つ電子の量を同時に観測すれば、一方のピークはなだらかでもう片方は鋭くなるはずだ。このことに着目し、伊・フィレンツェ大学のOscar Adrianiさんたちの研究チームは、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置されている宇宙線電子望遠鏡「CALET」で、2015年10月から2021年5月の約6年にわたって宇宙線の陽子と電子を同時に観測した。

その結果、2020年の太陽活動極小期には、陽子のピークはなだらかで電子のピークは鋭かった。Adrianiさんたちはドリフト効果を考慮した宇宙線輸送過程のシミュレーションも行い、観測された陽子と電子の量の変動を再現することに成功した。CALETによる観測結果を理論モデルで再現することで得られたこの結果は、ドリフト効果が太陽変調に大きな役割を果たしていることを示す世界初の成果だ。

宇宙線電子量と陽子量の変化および同期間の太陽黒点数と太陽磁場のカレントシートの傾き角
CALETが観測した宇宙線電子量(青丸)と陽子量(赤丸)の変化(下図(b))。1枚目の図の右端部分にあたる。青線と赤線はドリフト効果を考慮したモデルによる計算結果。上図(a)は同期間の太陽黒点数(黒線)と太陽磁場のカレントシートの傾き角(青点)を示したもの(提供:Physical Review Letters

今回CALETが観測したデータが示したのは、太陽活動の半周期分に当たる、主に太陽活動が減退期の太陽変調の描像だ。今後、太陽活動の増進期でもCALETが観測を継続すれば、太陽系内の磁場構造の変化による宇宙線への影響がより明確に示されると期待される。

地球に到来する宇宙線のイメージ図
地球に到来する宇宙線のイメージ図。ドリフト効果の結果、CALETが観測を行っている太陽双極子磁場が北向きの期間においては、陽子は太陽系の極領域を通過して地球に到来し、電子は太陽系の赤道領域に存在するカレントシートと呼ばれる領域に沿って地球に到来する(提供:(イラスト)早稲田大学、(図中の写真)JAXA/NASA)

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