超新星残骸の陽子起源ガンマ線を分離測定、宇宙線の加速を裏付け

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超新星残骸において宇宙線の陽子と電子の成分が初めて分離して測定され、超新星残骸からのガンマ線には陽子成分の寄与が大きいことが確認された。銀河宇宙線の加速起源が超新星残骸であることを決定づける成果である。

【2021年8月30日 名古屋大学

宇宙には非常に高いエネルギーを持つ粒子である宇宙線が飛び交っている。1912年にその存在が発見されて以来、どのようにして光速に近い速度まで宇宙線が加速されるのかというメカニズム(=宇宙線の起源)についての研究が進められており、天の川銀河内の宇宙線については超新星爆発に伴って加速されるという説が有力とされてきた。

近年、地上および衛星からのガンマ線観測により、多くの超新星残骸でガンマ線が発生していることがわかってきている。こうしたガンマ線が宇宙線の主成分である陽子から発生していれば、宇宙線は超新星爆発で加速されていることが証明される。しかし、ガンマ線は陽子の100分の1存在する電子によっても作られるため、陽子起源と電子起源のどちらが優勢なのか、2つの寄与の割合を測る必要がある。

宇宙線陽子・電子によるガンマ線放射のメカニズム
宇宙線陽子・電子によるガンマ線放射のメカニズムの概念図。陽子起源では星間陽子が宇宙線陽子と衝突・反応してガンマ線を作り、電子起源では宇宙線電子がエネルギーの低い光子と反応してガンマ線を作る(提供:名古屋大学リリース、以下同)

名古屋大学の福井康雄さんたちの研究チームは、ガンマ線で最も明るい超新星残骸であるさそり座のRXJ1713.7-3946について、ナミビアに設置されたヘス望遠鏡による高分解能の観測データを分析した。

研究チームはまず、ガンマ線の強度が星間陽子量および宇宙線電子量の増加と共に強くなることを確認した。次に、全ガンマ線強度を陽子起源のものと電子起源のものの合計として表し、それぞれの寄与の大きさを見積もった。星間陽子量については、チリの「なんてん」電波望遠鏡による水素分子の観測データなどから測定され、電子量はヨーロッパ宇宙機関の天文衛星XMMニュートンのX線観測データから求められている。

超新星残骸RXJ1713.7-3946
超新星残骸RXJ1713.7-3946

分析の結果、星間陽子の濃い場所では陽子起源が卓越し、薄い場所で電子起源が増加する様子が可視化され、2つのメカニズムが共に働いていることが確実となった。さらに、陽子起源のガンマ線と電子起源のガンマ線がそれぞれ全ガンマ線の70%と30%を占めることが示された。陽子・電子起源のガンマ線が分離されたのは初めてだ。

本成果は、超新星残骸からのガンマ線の大半が、宇宙線の主成分である陽子成分に由来することの強い証拠となる。銀河宇宙線が超新星爆発で作られていることを決定的づけるものだ。

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