中性子星合体から1秒間の変化を高精度シミュレーション
【2023年7月14日 京都大学】
2017年8月に、中性子星同士の合体で放出されたものとしては初めてとなる重力波GW170817が検出された。このとき、ガンマ線、可視光線、電波といった様々な電磁波でも合体に伴う輝きが検出されていて、重力波と電磁波の観測を組み合わせる画期的な「マルチメッセンジャー天文学」が実現した。
一方で、中性子星の合体で何が起こったのかは詳しくわかっていない。合体により鉄より重い元素が合成されると推測され、その過程に関する詳細な理解が望まれている。しかし、中性子星は直径約20kmで質量が太陽の40%を超えるような超高密度天体で、合体を再現するには高精度の理論計算が必要となる。
京都大学・基礎物理学研究所の木内建太さんたちの研究チームは数値相対論と呼ばれる技法を用いて、太陽質量の1.2倍と1.5倍(GW170817のデータから推測されるに値)の中性子星が合体するシミュレーションを行った。スーパーコンピュータ「富岳」で7200万CPU時間をかけた結果、既存のシミュレーションよりも10倍長い、合体後1秒間の変化を調べることに成功した。
中性子星合体による鉄より重い元素の合成は、衝突で物質が放出される際に起こると考えられているが、今回のシミュレーションでその放出過程が詳しくわかった。計算によれば、合体の約0.01秒後から、潮汐力と衝撃加熱によって物質の放出が始まり、0.04秒後にピークに達する。一方、合体によってドーナツ状の構造(トーラス)が形成されるが、合体から約0.3秒経つと磁気乱流によってトーラスから物質が放出されるようになる。
重力波と電磁波によって多面的に観測された現象については、精緻な理論モデルと比べることで、さらに理解を深めることができる。今回の結果は、宇宙分野に限らず、原子核物理や素粒子物理学にも大きな波及効果があると予想される。
「宇宙で起こる現象は日常生活から遠く離れたものですが、それを基礎物理学で解き明かすことは人類の知の地平線を広げることにつながると信じています。今回の研究を通して、知の地平線を広げることに少しでも寄与できたであろうことは研究者として至上の喜びを感じます」(木内さん)。
〈参照〉
- 京都大学:「富岳」で世界最長計算に成功―中性子星合体で電磁波放射の全貌把握へ―
- Physical Review Letters:Self-Consistent Picture of the Mass Ejection from a One Second Long Binary Neutron Star Merger Leaving a Short-Lived Remnant in a General-Relativistic Neutrino-Radiation Magnetohydrodynamic Simulation 論文
〈関連リンク〉
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