マグネターの超強磁場、X線偏光で初めて観測的に確認
【2022年11月29日 東京理科大学】
質量の大きな恒星が一生の最期に超新星爆発を起こしたあとに残る中性子星は、太陽と同程度の質量を半径約10kmの中に詰め込んだ超高密度天体であると同時に、太陽の数十億倍もの強力な磁場を持つ天体でもある。その中でも「マグネター(磁石星)」と呼ばれるものは、通常の中性子星のさらに1000倍ほど大きい、宇宙最強クラスの磁場を持つ天体だ。
こうした磁場を直接観測する手段はないため、これまではもっぱら理論的に調べられてきた。そんなマグネターの磁場を観測によって検証できると期待されたのが、2021年12月に打ち上げられたNASAとイタリア宇宙機関のX線偏光観測衛星「IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)」である。IXPEは天体が発するX線の波が特定の方向に偏っていること(X線偏光)を高い感度で観測できる初めての宇宙望遠鏡だ。
伊・パドバ大学のRoberto Tavernaさんたちの研究チームはIXPEのX線偏光計を用いて、カシオペヤ座の方向約1万3000光年の距離に位置するマグネター「4U 0142+61」を観測した。4U 0142+61の磁場は130億テスラと、地球磁気の26兆倍にもなるとされている。IXPEはこのマグネターが発する様々なエネルギーのX線を観測し、それぞれのエネルギー帯について、平均してどの方向に波が偏っているか(偏光角)、また偏っている波がどれだけの割合で存在するか(偏光度)を測定した。
測定の結果、比較的低エネルギー(2~4キロ電子ボルト)のX線では偏光度が約15%あるものの、5キロ電子ボルト付近では偏光度が0%近く、つまりほとんど偏光していなかった。しかし、さらに高エネルギー(5.5~8キロ電子ボルト)では偏光度が再び約30%にまで上昇している。また、低エネルギー側と高エネルギー側で偏光角が90度回転していることもわかった。
このようにX線のエネルギーによって偏光角が大きく変わるのは、観測前には予想されていなかったことだ。だがこの現象はマグネターの磁場によって説明できる。
まず、低エネルギーのX線は中性子星の表面から放たれていて、磁力線に平行な方向に偏光したのだと考えられる。その一部が、中性子星の磁気圏で加速された荷電粒子に当たって散乱されることで、エネルギーを受け取った上に磁力線に垂直な向きへと偏光していれば、観測されたのと同じ結果となる。
もう一つ予想外だったのは、低エネルギー側の偏光度が低いことだ。従来の想定では、マグネターの表面には大気が存在し、超強磁場中の大気が効率良くX線を偏光させるため、偏光度は80~100%になるはずだった。今回の約15%という観測結果は、4U 0142+61が大気を持たず、超強磁場により整列した超高密度の物質からなる固体地殻がむき出しになっていることを示唆している。
今回データ解析がなされたマグネターは4U 0142+61だけだが、IXPEは今後もいくつかのマグネターを観測する予定だ。これにより、中性子星の超強磁場や表面状態についての理解が深まると期待される。また、ブラックホールといった他のタイプの天体についてもIXPEによるX線偏光観測がなされており、今後の分析により、従来の方法では見ることができなかった新しい宇宙の姿が明らかになりそうだ。
〈参照〉
- 東京理科大学:マグネターは超強磁場を持つ大気のない中性子星-磁石星からのX線偏光を世界で初めて観測
- Science:Polarized x-rays from a magnetar 論文
〈関連リンク〉
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