X線偏光観測衛星「IXPE」が超新星残骸の謎に迫る
【2022年10月21日 NASA】
2021年12月9日に打ち上げられたNASAとイタリア宇宙機関のX線偏光観測衛星「IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)」は、X線の偏光(電磁波における波の向きの偏り)を高い感度で測定できる初の宇宙望遠鏡である。
ほとんど知られていないX線偏光の情報を求め、IXPEが最初の観測対象としたのは、超新星残骸「カシオペヤ座A」だ。
カシオペヤ座Aでは超新星爆発によって、極めて高速の衝撃波が発生した。衝撃波で吹き飛ばされた陽子や電子などの荷電粒子は、同じく爆発に伴って生じた磁場に閉じ込められ、磁力線の周りを強制的に旋回させられることになる。このとき電子は、磁力線の向きに応じて偏光した「シンクロトロン放射」と呼ばれる強い光を放つ。この偏光を調べると、非常に小さなスケールで超新星残骸の内部で起こっている現象を調べることができる。
電波による観測では、シンクロトロン放射がカシオペヤ座Aのほぼ全域で発生していることや、電波全体のうち偏光しているものは5%程度しかないことがわかっていた。また、磁場が残骸の中心から外側へと放射状に広がっていることも確認されている。
一方、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」の観測によれば、X線は主に残骸の外側、つまり衝撃波が磁場にぶつかっているところで発生している。これまでそのX線がどのように偏光しているかは観測できなかったが、電波とは向きが違うだろうと予測されていた。X線のシンクロトロン放射を生じさせている磁場は、電波を生じさせている磁場に対して垂直だと考えられていたのだ。
ところが、IXPEが観測したX線偏光は、磁場が電波と同じく中心から外へ向かう放射状に広がっていることを示している。さらに、カシオペヤ座AからのX線のうちで偏光しているものの割合は、電波の割合よりもさらに少なかった。このことは、X線源となっている領域は乱流が渦巻き、あらゆる方向の磁場が入り交じっているため、それぞれからのX線が重なり合った結果全体としての偏光度が小さくなったことを示唆している。
「これらの結果は、電子を非常に高いエネルギーに加速するために必要な環境を垣間見せてくれます。観測は始まったばかりですが、IXPEのデータは、今後わたしたちが追跡すべき新しい手がかりを提供してくれました」(オランダ・アムステルダム大学 Dmitry Prokhorovさん)。
〈参照〉
- NASA:NASA’S IXPE Helps Unlock the Secrets of Famous Exploded Star
- The Astrophysical Journal:X-ray polarization detection of Cassiopeia A with IXPE 論文
〈関連リンク〉
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