カシオペヤ座Aの超新星爆発はニュートリノがブーストしていた
【2021年4月27日 理化学研究所】
質量が太陽の約10倍よりも重い恒星は、一生の最期に「重力崩壊型超新星爆発」と呼ばれる大爆発を引き起こす。爆発直前の星の中心には鉄のコアができていて、このコアが自らの重力に耐えられなくなってつぶれ、やがて中心部にはほぼ中性子だけからなる「原始中性子星」という芯ができる。
原始中性子星の内部では、中性子同士の間に縮退圧や核力といった反発力が働くため、重力収縮に拮抗することができる。そのため、星の中心に向かって落ち込んだ物質は中性子星の表面で跳ね返され、衝撃波ができる。この衝撃波が外向きに伝わることで星全体が吹き飛ばされて超新星となる、というのが重力崩壊型超新星爆発のモデルだ。
しかし、実際にこのモデルに基づいた計算機シミュレーションを行ってみると、超新星爆発が起こらないという問題が1980年代から知られている。中性子星の表面で発生した衝撃波は星の内部を伝わる間にエネルギーを失ってしまい、星全体を吹き飛ばす前に止まってしまうのだ。
この問題を解決するメカニズムとして、「ニュートリノ加熱」という過程が考えられている。中性子星の中で莫大な数のニュートリノが生み出され、その一部が衝撃波の背後にある物質にエネルギーを与えて衝撃波の勢いを加速させ、星を爆発させるというものだ。ニュートリノは物質とほとんど相互作用をせずに通り抜けてしまう性質を持つが、中性子星で生み出されたニュートリノが持つ全エネルギーのうち、1%ほどが周囲の物質に与えられれば、衝撃波が復活して爆発できることがわかっている。
この「ニュートリノ駆動型対流エンジン」と呼ばれるメカニズムを取り入れることで、2000年代からようやく、重い星の超新星爆発をシミュレーションで再現できるようになってきた。ただし、星が確実に爆発するためには、ニュートリノ加熱で生み出される対流や「きのこ雲」のような上昇流など、球対称ではない流れの効果が不可欠であることが次第に明らかになっている。
一方で、超新星のニュートリノが実際に観測された例は、カミオカンデなどによるSN 1987Aのニュートリノ検出(1987年)しかなく、ニュートリノ加熱が非対称な流れを作り出して爆発に至る詳しい仕組みについて、観測から得られた情報はこれまでほとんどなかった。
理化学研究所の佐藤寿紀さんをはじめとする国際共同研究グループは、約350年前に爆発した重力崩壊型超新星の残骸「カシオペヤ座A」に着目した。カシオペヤ座の方向約1万1000光年の距離にあるこの超新星残骸では、爆発の中心部でしか作られない鉄などの元素が非対称に分布していて、超新星爆発が非対称に起こった証拠だと考えられるからだ。
佐藤さんたちはNASAのX線観測衛星「チャンドラ」がカシオペヤ座Aを観測したデータを解析し、非対称な構造の部分にどのような元素が存在するかを調べた。その結果、チタンやクロムなど、ニュートリノ駆動型の超新星爆発で多く生成される金属元素がこの領域に存在していることを発見した。
さらに佐藤さんたちは、超新星の内部で合成される元素の量を様々な条件で見積もってチャンドラのデータと比較することで、カシオペヤ座Aの非対称な構造部分に存在する元素の組成が、ニュートリノ駆動型の爆発で生じる上昇流の中で合成されるものとよく一致することも突き止めた。これらの結果から、研究チームでは、カシオペヤ座Aに見られる鉄の豊富な構造はニュートリノ加熱で加速された衝撃波が星を爆発させた証拠だと結論付けた。
研究チームでは、この発見によって超新星爆発の背後にニュートリノ加熱が存在することが観測的に立証されただけでなく、爆発の中心付近での物理量なども今後推定できるようになると期待している。
〈参照〉
- 理化学研究所:大質量星の超新星エンジンをX線観測で解明
- Chandra X-ray Observatory:Bubbles With Titanium Trigger Titanic Explosions
- Nature:High-entropy ejecta plumes in Cassiopeia A from neutrino-driven convection 論文
〈関連リンク〉
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