不変どころか激動する宇宙:450周年のティコの超新星残骸
【2022年12月7日 京都大学】
1572年、カシオペヤ座の方向に明るく輝く星が前触れもなく出現した。デンマークの天文学者ティコ・ブラーエはこの「星」を観測し、遠い宇宙空間に位置していることを証明した。これは、「天界は惑星が規則的に回転している以外は不変の世界である」という当時の宇宙観をくつがえす発見であり、天文学が近代化するきっかけの一つとなった。
このとき出現した「新しい星」は、白色矮星に伴星からガスが降り積もることで質量が限界に達して爆発したIa型超新星だったことがわかっている。観測者にちなんで「ティコの超新星」と呼ばれるこの爆発現象が目撃されてから、2022年11月で450周年を迎えた。爆発の位置に、現在では可視光線やX線などで輝く超新星残骸が見つかっている。
爆発の衝撃波で作られたティコの超新星残骸は、今でも膨張を続けている。その過程を調べるため、京都大学の松田真宗さんたちの研究チームは、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」が2000年、2003年、2007年、2009年、2015年に観測したデータを解析した。
その結果、残骸の北東部にX線が急増光する構造が見つかった。爆発から数百年が経過した超新星残骸で、このような年単位の変動が見つかるのは珍しい。
観測されたX線のエネルギーから、この領域の温度が数年のうちに1000万度近くまで急上昇したことが突き止められた。濃い星間ガスが存在するところに衝撃波が突入したことで加熱されたものとみられる。明らかな温度上昇が天の川銀河内の超新星残骸で見つかったのは初めてのことだ。
温度が変化するまでの時間から、ガス粒子同士が衝突してエネルギーを交換しているまさにその最中をチャンドラが観測していたことが確認された。また、数値計算との比較から、衝撃波とガスがぶつかる瞬間には電場や磁場のような遠隔作用による「無衝突」のプロセスで加熱が起こっていることも示唆されている。
宇宙空間は極めて密度が低いため、超新星残骸のような場所でも粒子の衝突をほとんど伴わない「無衝突衝撃波」によってエネルギーが伝わっている可能性がある。これは近傍では太陽風、遠方ではガンマ線バーストや衝突銀河団など、宇宙の様々な場所で起こり得る普遍的な現象だ。無衝突過程は、超新星残骸で高エネルギー宇宙線が加速される仕組みにも関わると考えられている。
「ティコ・ブラーエは、この超新星の観測から、宇宙が不変であるという古来よりの概念を打ち破りました。同じ天体から、450年後の私たちが、不変どころか激動する宇宙の姿を目の当たりにできたことに感慨を覚えます」(京都大学 内田裕之さん)。
〈参照〉
- 京都大学:ティコの超新星残骸で増光する構造を発見 ― 加熱過程をリアルタイムで捉える
- The Astrophysical Journal:Discovery of Year-scale Time Variability from Thermal X-Ray Emission in Tycho’s Supernova Remnant 論文
〈関連リンク〉
- Chandra X-ray Observatory:
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