ティコの超新星の原因、残骸の膨張速度にヒント
【2021年1月12日 京都大学】
極めて明るい爆発現象である超新星のうちIa型に分類されるものは、太陽のような恒星が寿命を迎えたときに残す高密度の天体である白色矮星が引き起こす。Ia型超新星爆発は最大の明るさが一定と考えられるため、遠方の銀河までの距離を測定する標準光源として用いられてきた。また、Ia型超新星爆発は鉄などの重元素の主な起源の一つでもある。
これほど重要な現象でありながら、その爆発の仕組みについては論争が続いている。Ia型超新星爆発を起こす白色矮星は連星系を成しているが、連星のもう一方の星が何であるかがわかっていない。伴星が通常の恒星だという説では、白色矮星に伴星からのガスが降り積もり、限界質量(チャンドラセカール質量)に達したところで暴走的な核融合が始まり爆発する。これに対して伴星も白色矮星だという説もあり、この場合は白色矮星同士が合体することで爆発を起こす。
爆発前の白色矮星の伴星が何だったかを突き止めるのは、爆発が遠方の銀河で起こった場合はもちろん、私たちの天の川銀河で発生したIa型超新星の場合でも難しい。1572年にカシオペヤ座の方向で出現し、天文学者ティコ・ブラーエが観測したことで有名な「ティコの超新星」もその一つだ。
ティコの超新星の周りには爆発の衝撃波によって生じる超新星残骸が存在し、約450年の間ゆっくりと膨張を続けている。京都大学の田中孝明さんたちの研究チームはこの残骸が膨張する様子を、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」が2003年、2007年、2009年、2015年に撮影したデータから精密に測定した。
その結果、超新星残骸の膨張速度が最近になって急激に減少していることが明らかになった。衝撃波の広がり方をシミュレーションしたところ、密度の低い空間を進んでいた衝撃波が高密度なガスの壁に衝突したと考えれば、このような減速をうまく説明できる。つまり、ティコの超新星残骸は、空洞の中心部分が殻のような濃いガスに包まれた構造だというわけだ。
白色矮星が恒星と連星を成している場合、ガスが降り積もる白色矮星からは強い風が吹くという理論が、1996年に東京大学(当時)の蜂巣泉さんたちによって提唱されている。この風によって、濃いガスに囲まれた空洞という構造が作られたと説明できる。一方、白色矮星同士の連星ではそれができない。今回の研究結果は、ティコの超新星は白色矮星と恒星の連星系が引き起こしたという説を強く支持するものだ。
これまでの様々な観測から、ティコの超新星は明るさなどの点で標準的なIa型超新星爆発だったことがわかっている。今回の分析結果は特例ではなく、Ia型超新星一般について考察する上でも重要な役割を果たすものとなるだろう。田中さんたちは追観測を行って今回発見したガス構造をさらに調べる計画だ。
〈参照〉
- 京都大学:ティコの超新星残骸の衝撃波の急激な減速を発見 -Ia型超新星の爆発メカニズムに迫る-
- The Astrophysical Journal Letters:Rapid Deceleration of Blast Waves Witnessed in Tycho's Supernova Remnant 論文
〈関連リンク〉
- Chandra X-ray Observatory:
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