超大質量ブラックホールに給仕する超新星爆発
【2021年7月20日 アルマ望遠鏡】
ほとんどの銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在し、多くの場合でその周り数百光年以内には冷たい分子ガスが円盤状に回転しながら集まった「核周円盤」があることがわかっている。この円盤からブラックホールへガスが落下すると、摩擦で高温となって輝き、遠方からでも明るく見える活動銀河核となる。
ただ、公転する地球が太陽に落下しないのと同様、核周円盤のガスは回転しているため、そのままでは超大質量ブラックホールへ落下できない。ガスの回転を弱めてブラックホールへの降着を促すメカニズムについては、これまで議論の対象となっていた。
これまで提唱されていた仮説の中には、超新星爆発が落下の引き金となるというものがあった。核周円盤を形成する分子ガスは恒星の材料でもあるので、円盤の中ではさかんに星が形成され、その中で質量が大きなものは寿命を迎えると超新星爆発を起こす。この爆発で解放されたエネルギーが核周円盤の流れをかき乱し、ガスの角運動量を減らして中心核へ落下させるというわけだ。
国立天文台アルマプロジェクトの永井洋さんたちの研究チームは、この超新星仮説を初めて観測で裏付けることに成功した。
永井さんたちは地球から約2億3000万光年離れたペルセウス座銀河団の中心にある巨大楕円銀河NGC 1275をアルマ望遠鏡で観測し、太陽の1億倍もの質量を含む半径約300光年の核周円盤をとらえた。さらに、米国内10か所のアンテナを連動させて高い解像度を得るVLBA(超長基線電波干渉計)を使ってこの核周円盤を調べ、シンクロトロン放射を円盤の全体にわたって検出した。
シンクロトロン放射は電子が磁場の中を高速で運動するときに発生する電磁波で、ブラックホールから噴出されるジェットに伴うこともあるが、NGC 1275の場合は核周円盤そのものから放射されていると考えられる。シンクロトロン放射を生むような高速電子が円盤の中で放たれるとすれば、超新星である可能性が高い。VLBAは、かつて核周円盤で生じた超新星爆発の痕跡をとらえたのだ。
さらに、アルマ望遠鏡の観測データから分子ガスの運動の乱れを調べたところ、超新星爆発で生じると理論的に予測された乱流速度と一致していることもわかった。超新星がきっかけとなって核周円盤から超大質量ブラックホールへガスが流れ込むという仮説を強く裏付ける結果だ。
「アルマ望遠鏡とVLBAの高い解像度のおかげで、分子と高エネルギー電子という性質が大きく異なる2種類のガスを結びつけることに成功し、ブラックホールへの物質の降着を促す原因に迫ることができました。他の活動銀河核においても同様の研究を行うことで、超新星爆発とブラックホールへの物質の降着を促す原因の関係を、さらに明らかにできると考えています」(永井さん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:超新星爆発は超巨大ブラックホールの給仕係?
- The Astrophysical Journal Letters:Diffuse Synchrotron Emission Associated with the Starburst in the Circumnuclear Disk of NGC 1275 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡
- Very Long Baseline Array (VLBA)
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:NGC 1275
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