ブラックホールから生じる「ねじれた」ガンマ線

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ブラックホールやマグネターなどの強い磁場を持つ天体から放射されるガンマ線が「光渦」と呼ばれる特殊な状態の光であることを理論的に示す結果が得られた。

【2021年12月2日 量子科学技術研究開発機構

宇宙にはガンマ線バーストやX線パルサーなど、強いガンマ線やX線を放射する天体が存在する。こうした高エネルギーの光子の発生源は、ブラックホールの周りの降着円盤や強い磁場を持つ中性子星(マグネター)など、きわめて磁場が強い環境ではないかと考えられている。強い磁場の中では、電子が磁力線に巻き付くようにらせん運動を行いながら強い光を放射する「シンクロトロン放射」という現象が起こるためだ。

ガンマ線バースト
ガンマ線バーストの模式図。ガンマ線バーストは重い星が一生の最期に重力崩壊を起こしてブラックホールとなるときに放出される強力なジェットではないかと考えられている。ジェットの内部では高エネルギーの電子が磁力線に沿ってらせん運動を行い、シンクロトロン放射でガンマ線を放射する(提供:量子科学技術研究開発機構リリース、以下同)

しかし、ブラックホールの周囲やマグネターの磁場は1012-15ガウスという桁外れの強さを持っていると推定されており、実験で作り出せる磁場に比べて数千万倍から数億倍も強い。そのため、これほど強い磁場が引き起こす宇宙の現象については、実験的にも理論的にもわかっていない点が多い。

また、強い磁場のもとで起こるシンクロトロン放射を考える際には、電子のらせん運動の半径がとびとびの値をとるといった量子力学的な効果を考慮しなければならないが、量子論に基づくシンクロトロン放射の計算はこれまであまり行われておらず、こうした過程で発生する光子の波動関数の性質などもわかっていなかった。

電子のらせん運動の量子化
シンクロトロン放射を生じる電子の運動。らせん運動する電子の軌道の大きさは、量子力学では磁場の強さに応じてとびとびの値しかとれない。きわめて磁場が強い状況下ではこの効果が大きくなるため、電子の運動を量子論的に取り扱う必要がある

日本大学の丸山智幸さんたちの研究チームは、強い磁場中のシンクロトロン放射で生成されるガンマ線がどんな性質を持つのかを量子力学に基づいて計算した。その結果、こうした強い磁場のシンクロトロン放射では、「光渦」(ひかりうず、optical vortex)と呼ばれる特殊なガンマ線(ガンマ線渦)が主成分になることが明らかになった。さらに、磁場が強いほど、放射光に占める光渦の割合が大きいこともわかった。

光渦は近年、量子光学などの分野で注目されている特殊な光だ。普通の光は波面(電磁波の山や谷をつないだ面)が進行方向に対して垂直な面として現れるが、光渦は波面自体がらせん状にねじれている。今回の成果は、強い磁場を持つ天体の現象で光渦が生じることを理論的に初めて示すものだ。

ガンマ線渦と通常のガンマ線の模式図
(左)シンクロトロン放射で生じる光渦の模式図。らせん運動する電子(黄)から光渦のガンマ線(青)が放出される。(中央)光渦の波面はらせん状にねじれている。(右)通常のガンマ線では波面は進行方向に垂直で、1波長の間隔で並ぶ面となる

宇宙空間ではガンマ線光子と原子核が衝突することで様々な同位元素が作られるが、普通のガンマ線光子と光渦のガンマ線光子では、原子核に与える影響が異なると予想されている。隕石に含まれる元素を分析することで、光渦が元素の生成に与える影響を検証できるかもしれない。将来の観測衛星などで強磁場の天体からの光渦を直接検出することも期待できると研究チームでは考えている。

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