高速電波バーストの謎に迫るマグネターの双子グリッチ
【2024年2月21日 京都大学】
高速電波バーストは、数百メガヘルツから数ギガヘルツの電波帯で1ミリ秒以下という非常に短い時間に起こる突発現象だ。2007年に初めて報告されて以降、そのほとんどが天の川銀河外に起源を持つことがわかっていて、高速電波バーストを起こした天体の母銀河が特定された例もある。しかし、高速電波バーストを起こす天体の正体は明らかになっていなかった。
そんな中、天の川銀河内に存在する「マグネター」(強磁場を持つ中性子星)の一つ、こぎつね座の「SGR 1935+2154」が、2020年4月28日にX線バーストを頻発し、さらにそのX線バーストの一つと高速電波バーストが同時に検出された。この観測から、少なくとも高速電波バーストの一部はマグネターを起源としていることが明らかになった。ただし、観測が少ないため、発生機構はまだ明らかになっていない。
その約2年後の2022年10月10日、SGR 1935+2154が再び類似したX線バーストを頻発しはじめた。この現象にいち早く気が付いた台湾国立彰化師範大学のChin-Ping Huさんたちの研究チームは、前回と同様に高速電波バーストが発生することを期待して、国際宇宙ステーションに設置されたNASAのX線望遠鏡「NICER」やX線天文衛星「NuSTAR」に緊急観測を要請し、同月12日から4日間にわたるモニタリング観測を行った。
観測開始から2日後の14日、期待どおりにマグネターが高速電波バーストを起こした。残念ながら地球の影であったため高速電波バーストそのものの瞬間にX線観測はできなかったが、バーストの発生前後の2日間にわたって、かつてない高頻度のX線観測データが得られた。
マグネターを含む中性子星は表面にホットスポットと呼ばれる高温の領域があり、そこからのX線が自転に伴ってパルス的に放射されるので、そのパルスを観測すれば星の自転を測定できる。HuさんたちはX線パルスの到来時間を詳しく解析し、今回の高速電波バースト前後の時間でSGR 1935+2154の自転がどのように変化したかを調べた。
その結果、この天体は高速電波バースト発生の約4時間前と4時間後に、急激に自転が速くなるグリッチ(スピンアップ・グリッチ)という現象を起こしていたことが明らかになった。
このようなグリッチはこれまでにもいくつかの中性子星で観測されているが、高速電波バーストに付随して観測されたこと、短期間にほぼ同じ強度で2度連続して観測されたことは今回が初だ。また、今回の双子のグリッチはこれまでに観測された中で最大級であることもわかった。
2度のグリッチの間で自転が急激に減速していることから、何らかの方法でエネルギーが放出されたと考えられる。観測データを元に計算したところ、放射によって失われたエネルギーは10%程度と見積もられた。放射エネルギー以外の理由で減速が起こった可能性を示唆するものである。
今回の研究では高速電波バーストが起きる際にマグネターの自転が短時間で大きく変化していることが示され、マグネターの活動と高速電波バーストとの関連を解明するうえで有用な成果が得られた。今回のような電波とX線を結びつけた多波長観測や、高頻度なマグネター観測などにより、さらに研究が進展することが期待される。
〈参照〉
- 京都大学:高速電波バーストの謎に迫るマグネターの双子グリッチ ― 銀河系内マグネターSGR 1935+2154のFRB前後にグリッチを発見
- NASA:NASA Telescopes Find New Clues About Mysterious Deep Space Signals
- Nature:Rapid spin changes around a magnetar fast radio burst 論文
〈関連リンク〉
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