中性子星内部の状態を実験室で再現、硬さを測定
【2021年5月18日 理化学研究所】
寿命を迎えて超新星爆発を起こした大質量星が残す中性子星は、質量が太陽と同程度ながら半径は約10kmしかない。中心部の密度は1cm3あたり1兆kg(原子核密度の5~7倍)に達しており、宇宙で最も高密度な天体だ。
中性子星の表面は原子核や電子からなり、内部に進むにつれて原子核が融けて中性子を主とする一様な高密度物質になると考えられているが、詳しい内部構造はわかっていない。というのも、中性子星内部の状態を実験室で安定的に作り出すことは不可能だからだ。その代わりに、加速した原子核を別の原子核に衝突させて高密度状態を作り出すという方法があるものの、生成される高密度核物質が一瞬で崩れるため、衝突でどんな物質ができたかを調べるのは困難だった。
米・ミシガン州立大学のJustin Esteeさんたちの国際共同研究グループでは、原子核の衝突時に放出される「荷電パイ中間子」を測定する3次元時間射影型飛跡検出システム「SPiRIT」を開発し、これを用いて日・理化学研究所の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」で原子核衝突実験を行った。荷電パイ中間子は中性子や陽子を結びつける力を介在する粒子の一つであり、生成された高密度物質に関する情報を含んでいる。
衝突させる原子核としては、中性子を多く含む安定同位体を作りやすいスズが選ばれた。スズ原子核を別のスズ原子核にぶつけることで、瞬間的に原子核密度の1.5~2倍の密度が実現する。中性子が多いスズ同位体同士を衝突させた場合と少ないもの同士を衝突させた場合で放出される荷電パイ中間子の違いを比較したところ、1.5倍原子核密度における中性子核物質の硬さ(圧力)は(2±1.5)×1029気圧であることがわかった。これはダイヤモンドと比べると25桁も大きな数値だ。
今回の実験で、従来よりも高い精度で中性子星の内部状態が求められた。中性子星の内部構造の理解にとどまらず、中性子星合体や超新星爆発における元素合成過程を数値計算する上で必須の情報が得られたことになる。ただし、中性子星の中心密度は今回再現した状態よりさらに大きい。今後、より高密度かつ中性子のより多い原子核物質を測定することで、中性子星の中心部に迫ることが期待される。
〈参照〉
- 理化学研究所:高密度な中性子物質の硬さの測定に初めて成功-中性子星内の状態を実験室で再現-
- Physical Review Letters:Probing the Symmetry Energy with the Spectral Pion Ratio 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/02/26 中性子星合体によるショートガンマ線バーストの駆動機構を解明
- 2024/02/21 高速電波バーストの謎に迫るマグネターの双子グリッチ
- 2023/10/17 中性子星で起こる、地球の地震とそっくりの余震
- 2023/07/14 中性子星合体から1秒間の変化を高精度シミュレーション
- 2022/12/15 常識をくつがえすハイブリッド型のガンマ線バースト
- 2022/11/29 マグネターの超強磁場、X線偏光で初めて観測的に確認
- 2022/11/02 中性子星の合体でレアアースが作られていた
- 2022/10/19 中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット
- 2022/08/01 一見孤立したガンマ線バースト、実は遠方銀河の中にいた
- 2021/12/10 X線偏光観測衛星「IXPE」、打ち上げ成功
- 2021/12/02 ブラックホールから生じる「ねじれた」ガンマ線
- 2021/07/05 中性子星とブラックホールの合体に伴う重力波を初観測
- 2021/05/19 せいめい望遠鏡の新システム「TriCCS」が本格稼働
- 2021/01/22 10年間隔の画像を比較して超新星爆発の年代を逆算
- 2020/12/03 ガンマ線連星中のコンパクト天体はマグネターの可能性
- 2020/11/27 宇宙の距離を測定する最長の「ものさし」
- 2020/10/09 マグネターと電波パルサーをつなぐ中性子星
- 2020/08/04 超新星1987Aの塵の輝き、幻の中性子星か
- 2020/07/17 100億光年彼方のショートガンマ線バーストの残光
- 2020/06/26 最重量の中性子星?最軽量のブラックホール?謎の重力波源