マグネターと電波パルサーをつなぐ中性子星
【2020年10月9日 理化学研究所】
大質量の恒星がその一生を終えて超新星爆発を起こすと、ブラックホールや中性子星といったコンパクトな高密度天体が残る。標準的なサイズの中性子星の場合、太陽質量の1.4倍ほどの物質が半径約12kmに押し込められており、周辺は強い磁場を帯びている。
これまでに、天の川銀河を中心に2800天体ほどの中性子星が見つかっており、特徴によって区別できる複数の「種族」に分けられている。その種族の中で最も磁場が強い天体は「マグネター」と呼ばれ、その表面磁場は100億~1000億(1010-11)テスラにも達する。これは地球の地磁気(50マイクロテスラ=5×10-5テスラ程度)の1000兆倍という途方もない強さであり、マグネターは宇宙で最強の磁石星といえる。
その強い磁場のため、マグネターでは光子が2つに分裂したり、真空にもかかわらず偏光に応じて屈折率が変化したりする(真空の複屈折)など、地上では観測できない現象が起こっていると考えられている。このように興味深く、天文学上の重要な研究対象でありながら、これまでに知られているマグネターの数は20天体ほどしかなかった。
今年3月12日、NASAのガンマ線バースト観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」が、いて座の方向に継続時間10ミリ秒ほどのX線バースト現象を検出し、その位置に「Swift J1818.0-1607(以下、Swift J1818)」が発見された。
理化学研究所のHu Chin-Pingさんたちの研究グループは国際宇宙ステーションに搭載された中性子星観測装置「NICER」を用いて、X線バーストの検出から4時間後にSwift J1818の追跡観測を開始し、X線が1.36秒周期で変化していることを発見した。その後の継続観測で周期変化率も測定し、情報を組み合わせることで表面磁場の強さを270億(2.7×1010)テスラと見積もり、Swift J1818が1.36秒周期で自転するマグネターであることを突き止めた。1.36秒という自転周期は、これまでに知られている古典的なマグネターの中で最も速いものだ。
中性子星の大多数を占める「電波パルサー」は周期1秒前後の高速な自転に伴って周期的な電波パルスを放出するが、一般にマグネターが電波パルスを出すことは稀だ。今回のSwift J1818は電波の信号も検出される珍しい天体であり、電波でも同様の周期性が確認された。
その後もSwift J1818のX線のスペクトルやパルス周期をモニタリング観測したところ、X線で増光を始めてから8日後と14日後に、自転の周期が急激に変化する「グリッチ」と呼ばれる現象が検出された。グリッチは中性子星の内部状態が変化することで発生すると考えられており、マグネターの内部を理解する上で重要な観測データとなる。また、2回のグリッチの強さは、既知のマグネターのグリッチの中でも強く、発生間隔も短いことから、Swift J1818の活動性が高い時期に観測されたものと考えられている。50日間の観測で、Swift J1818のX線は50%ほど減少した。
HuさんたちはSwift J1818の年齢を420歳と推定している。これは中性子星の中でも極めて若い部類だ。また、回転エネルギーの減少率はマグネターとしては大きく、むしろ電波パルサーに似通っている。自転速度の速さと併せて考えれば、Swift J1818はマグネターとして振る舞いつつも、電波パルサーの特徴をも備えている天体といえる。今後中性子星の進化を理解する上で、異なる種族同士を結びつける鍵となりそうだ。
〈参照〉
- 理化学研究所:宇宙最強の磁石星「マグネター」に新天体-国際宇宙ステーションのX線望遠鏡NICERが活躍-
- ATel:
- The Astrophysical Journal:NICER Observation of the Temporal and Spectral Evolution of Swift J1818.0−1607: A Missing Link between Magnetars and Rotation-powered Pulsars 論文
〈関連リンク〉
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