宇宙の距離を測定する最長の「ものさし」

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特定の条件を満たすガンマ線バーストは、残光の変化とガンマ線の強さに一定の関係があることがわかった。Ia型超新星よりも遠くの天体の距離を測定するのに使えるかもしれない。

【2020年11月27日 理化学研究所

地球から遠方の天体までの距離を正確に測定するための「ものさし」として、見かけの挙動だけで真の明るさを見積もることができる「標準光源」と呼ばれる天体が活用されている。Ia型超新星は代表的な標準光源で、一番遠いものは約110億光年の距離で見つかった。しかし、138億年におよぶ宇宙の進化を理解するには、さらに遠くで観測できる標準光源が必要とされている。

その候補が、宇宙で最も絶対光度が明るい現象である「ガンマ線バースト」だ。ガンマ線バーストは「即時放射」とも呼ばれる数秒前後だけ続くガンマ線の放出と、その後X線などの電磁波がしばらく見られる「残光」の2段階に分かれる。この即時放射と残光の起源については、全てのガンマ線バーストをまとめて説明できるモデルはなく、様々な現象が関わっていると考えられてきた。

即時放射が1秒程度の「ショート(短時間)ガンマ線バースト」の多くは、2つの超高密度天体の合体に伴って発生するという考え方が有力である。中でも中性子星同士が合体したときには、可視光線での明るさが新星(nova)と超新星(supernova)の中間程度の「キロノバ(kilonova)」が観測できることがあるが、これまでに何度かショートガンマ線バーストとキロノバが同時に検出されてきた。2017年8月17日には中性子星同士の合体に伴う重力波「GW170817」とほぼ同時にキロノバとショートガンマ線バーストが観測され、その関係は決定的になっている(参照:「連星中性子星の合体からの重力波を初検出、電磁波で重力波源を初観測」)。

重力波GW170817の検出後に撮像されたキロノバ
2017年8月にうみへび座の銀河「NGC 4993」で起こった中性子同士の合体で発生した重力波GW170817の検出の約15時間後、観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」が撮影したキロノバの画像から作成された動画(提供:NASA/Swift

理化学研究所数理創造プログラム(iTHEMS)のMaria Dainottiさんたちは、このキロノバに伴うショートガンマ線バーストが標準光源として有用であるとする研究結果を発表した。

2016年に発表された論文では、DainottiさんたちはNASAの観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」が検出した183個のガンマ線バーストを解析している。その結果、それぞれのガンマ線バーストについて

  • X線残光プラトーフェーズの継続時間(X線の残光はしばらくの間一定の光度を保つが、この時間を指す)
  • X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度(X線残光が減光に転じたときの明るさ)
  • 即時放射中におけるガンマ線光度

の3つの値を取って3次元のグラフを作ると、データ点が一つの平面に集まるという法則を明らかにしていた。

今回、Dainottiさんたちの研究グループは、様々なタイプのガンマ線バースト372個のデータを調べた。グラフの点が一つの平面に集まるといっても、個々の点は平面から少しずつずれている。だがキロノバと同時に観測されたショートガンマ線バーストは、キロノバを伴わないショートガンマ線バーストに比べて平面からのずれが29%小さく抑えられていた。

3次元物理量空間におけるショートガンマ線バーストの分布
3次元物理量空間におけるショートガンマ線バースト(SGRB)の分布。X線残光プラトーフェーズの継続時間(T*x)、X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度(Lx)、即時放射中におけるガンマ線光度(Lpeak)を3軸に取った3次元物理空間。ニール・ゲーレルス・スウィフトによって観測された、キロノバと同時発生するSGRB(8イベント)を黄色、キロノバを伴わないSGRB(35イベント)を赤色でプロット。キロノバと同時発生するSGRBは基本平面(灰色)のからのずれが小さく、かつ全てが基本平面の下側にあることがわかる(提供:理化学研究所リリース)

今回の研究結果は、ガンマ線バーストの中でも、キロノバを伴うショートガンマ線バーストが「標準光源」として有望であることを示している。ただし、3次元グラフの点が1つの平面に集まるというのは経験則に過ぎず、「絶対光度が一定である」ということに理論的な裏付けがあって標準光源として利用されているIa型超新星とは状況が異なる。キロノバが中性子星の合体で起こることまではわかっているので、ガンマ線バーストのメカニズムと「点が平面に集まる」ことの理論的な裏付けが解明できれば、宇宙のものさしとしての信頼性も確立されそうだ。

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