JWSTが133億光年彼方に最遠の星団を発見

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ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で、133億光年彼方の銀河に星団が5つ見つかった。ビッグバンから5億年未満の時代に星団が見つかったのはこれが初めてだ。

【2024年7月11日 早稲田大学ヨーロッパ宇宙機関

現在の宇宙論では、宇宙誕生から2億~5億年ほど経った時代に「宇宙の再電離」という現象が起こったと考えられている。宇宙の誕生直後に陽子と電子が結びついてできた中性の水素ガスが、この再電離の時代に生まれた第一世代の星や銀河が出す紫外線によって、再びプラズマになったのだ。

宇宙の再電離がいつ、どのように起こったのかは完全にはわかっていない。130億光年を超えるようなきわめて遠い宇宙を観測すれば、第一世代の恒星や銀河が見えてくるはずだが、これらの天体はきわめて暗く、観測は難しい。ただし、それらの手前に巨大な銀河団などがあると、背景の天体から届く光が「重力レンズ効果」で増光・拡大され、発見や観測がしやすくなる。

ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡による「RELICS (Reionization Lensing Cluster Survey)」は、この重力レンズ効果を利用して再電離時代の天体を探すサーベイ観測プロジェクトだ。2018年にこのサーベイで、がか座の方向約133億光年の距離に、重力レンズ効果を受けた銀河「SPT0615-JD1」(別名「コズミック・ジェムズ・アーク(Cosmic Gems arc、“宇宙の宝石”アーク)」)が見つかった。この銀河は、過去に見つかった重力レンズ銀河像の中で最も遠く、宇宙年齢がわずか4億6000万歳の時代(赤方偏移z=10.2)にある。その姿は、前景の銀河団が引き起こす重力レンズ効果でアーク(円弧)状に引き伸ばされ、長辺が約100倍にも拡大されている。

スウェーデン・ストックホルム大学のAngela Adamoさんたちの研究チームがSPT0615-JD1をジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で詳細に観測したところ、銀河の内部にきわめてコンパクトな大質量の星団が5つ見つかった。これらの天体は、天の川銀河にも存在する球状星団の祖先と考えられる。

SPT0615-JD1に見つかった5つの星団
(左)JWSTが撮影した銀河「SPT0615-JD1」の重力レンズ像(z=10.2)。内部に10個の輝点が5個ずつ鏡像対称に並んでいて、5個の星団が重力レンズ効果で2重に見えていると考えられる。上部にあるのはやや近い距離(z=2.6)に位置する別の銀河のレンズ像。(右)重力レンズ効果を引き起こしている前景の銀河団「SPT-CL J0615-5746」。画像クリックで表示拡大(提供:ESA/Webb, NASA & CSA, L. Bradley (STScI), A. Adamo (Stockholm University) and the Cosmic Spring collaboration)

球状星団は非常に古い星々からなり、何十億年も重力でまとまって存在している「宇宙初期の化石」のような天体だ。しかし、球状星団がいつどこで形成されたのかはよくわかっていない。今回、初期宇宙に若い大質量の星団が検出されたことで、星団の内部構造や星の分布といった、星団ができた初期段階につながる情報が得られ、若い銀河の中でどのように星団が形成されるのかが明らかになるかもしれない。

「JWSTの画像を初めて見たときは驚愕しました。小さな輝点の連鎖が、鏡に映したように対称に並んでいて、これらの小さな輝点は星団だったのです。JWSTがなければ、このような若い銀河の星団を見つけることはできなかったでしょう。今回の結果は、宇宙再電離の時代に暗い銀河の中で“原始球状星団”が形成されたことを示す直接的な証拠で、こうした銀河がどのように宇宙を再電離させたのかを理解するのに役立ちます」(Adamoさん)。

今回見つかった星団は天の川銀河にある球状星団よりも質量が大きく、恒星の数密度もかなり高い。こうした環境では、超大質量ブラックホール(SMBH)の誕生につながる物理過程が起こる可能性がある。初期宇宙に存在するSMBHがどうやってできたのかはいまだ謎だが、高密度の星団内でブラックホール同士の合体が頻繁に起こってSMBHが誕生するという説や、恒星同士の合体が暴走的に起こって超大質量の恒星ができ、その崩壊でSMBHになるという説などが提案されているからだ。

「コズミック・ジェムズ・アークの星団を構成する星々は非常に高い密度で密集しています。これは、星団の内部で起こっている何らかの物理過程を示唆するものであり、銀河の進化にとって重要な大質量星や、ブラックホールの“種”の形成について新たな視点を与えるでしょう」(Adamoさん)。

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