重力レンズで時間差観測、115億光年彼方の超新星
【2022年11月14日 千葉大学】
恒星の死に伴う爆発現象である超新星は、星が属する銀河全体を上回るほどの明るさになる。そのため、近年では大型望遠鏡の観測によって100億光年以上の遠方宇宙で起こった超新星爆発も見つかるようになってきた。だが観測機会が限られる遠方の超新星については、得られる情報も少ない。とくに、爆発する前の恒星の性質が明らかになった超新星は、地球から数億光年以内の近傍の超新星爆発に限られていた。
今回、米・ミネソタ大学のWenlei Chenさんたちの国際共同研究チームは、地球から約115億光年という非常に遠く離れた銀河で起こった超新星を発見し、爆発前の恒星が太陽の約500倍の半径を持つ赤色巨星であったことを突き止めた。この快挙は、超新星と地球の間に位置するくじら座方向の銀河団「Abell 370」の重力がレンズのような役割を果たし、超新星からの光を曲げ、複数の経路を通じて地球に届けたおかげである。経路によって光が地球へ到達するまでの所要時間に数日程度の差があったため、研究チームは超新星の爆発初日から8日目までの変化を1つの画像から知ることができたのだ。
超新星が3つに分かれて写った画像は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2010年12月に撮影していた。研究チームはHSTが残したアーカイブ画像を系統的に調査する中で、今回の超新星を見つけている。
3つの像のうち時系列で一番最初のものは、爆発から6時間後という非常に早い段階の超新星をとらえていた。2番目は爆発後約2日、3番目は爆発後約8日の姿で、徐々に色が赤くなっている。これは爆発の衝撃波によって星が膨張して、温度が低下した結果だと解釈できる。この冷却のペースから、爆発前の恒星の大きさが計算された。
また、この発見に基づき、115億光年の遠方までの超新星爆発頻度を求めた結果、遠方宇宙ではこれまで考えられていたよりも多くの超新星爆発が起こっており、星の形成が活発であったことも示された。
〈参照〉
- 千葉大学:115億光年の遠方から届いた超新星爆発初期の様子 ー 重力レンズにより超新星爆発の遠方観測世界記録を大幅に更新
- NASA:Hubble Captures 3 Faces of Evolving Supernova in Early Universe
- Nature:Shock cooling of a red-supergiant supernova at redshift 3 in lensed images 論文
- natureasia.com:超新星の初期段階を観測
〈関連リンク〉
- 千葉大学YouTube公式チャンネル:重力レンズ像および像からの光の到達時間の遅れについての解説動画
- HubbleSite
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